皇女様への告白
「…………」
ローグ・ガルソンの申し出に、僕は考え込んだ。果たしてこのまま、辺境伯の館まで付いていっていいものだろうか?
今の時点ではどうか分からないが、遅かれ早かれ、僕達を捕えよという摂政の触れはこのカルデンヴァルトまで回ってくる。もしもそのとき、僕達が辺境伯の館に滞在していたら、辺境伯は僕達を捕えて摂政に差しだそうとするかも知れない。
しかしその一方、リーラニア軍が再びこのカルデンヴァルトに攻め寄せてくる恐れが本当にあるのなら、それを阻止するのに辺境伯との連携は欠かせない。また戦乱が起きることを考えたら、僕一人の身の安全なんか考えてられないが……
とはいえ、危険を避けるためにできるだけのことはやっておく必要がある。僕は体を起こして立ち上がり、マルグレーチェに「将軍とバルマリクに乗ってて」と耳打ちした。
そして、シャルンガスタ皇女殿下の様子を窺う。幸い、彼女はすぐに目を覚ました。
「ああ……」
「皇女殿下、お立ちになれますか?」
僕が問いかけると、皇女殿下は無言でこっちに手を伸ばしてきた。僕がその手を取って引っ張ると、彼女は僕に掴まりながら立ち上がる。ポルメーは元の丸っこい形に戻り、僕の頭に乗った。
「姫様、しっかり」
「さあ、馬車へ……」
お付きの人達も皇女殿下の体を支え、僕達は馬車へと歩いていく。もう少しで入口の階段となったとき、僕は皇女殿下の支えをお付きの人に任せ、彼女の前に跪いた。
「アシマ様……?」
「申し訳ございません、皇女殿下。わたくし共三名は、この先殿下にお供することができません」
「そんな……急に何を仰るのです?」
「申しそびれておりましたが、わたくし共はマリーセン王国から追われる身なのでございます。先にわたくしが王都を追放となり、続いてクナーセン将軍が謂れのない反乱の罪を着せられ、殿下のお国であるリーラニア帝国へ落ち延びようとしていたところ、殿下の御危難をお見かけした次第でございます。このまま辺境伯の館までお供すれば、捕縛され王都に送還の上、処刑されることでしょう」
実際にそうなるかは分からないが、僕はあえて最悪の想定を言った。
言い終えてから、ローグ・ガルソンの方をちらりと見る。僕達がお尋ね者と分かって、彼はどうするか? 捕えようとしてくるなら即、退散だ。それなら皇女殿下も納得せざるを得ないだろう。
だが、ローグ・ガルソンは呆気に取られるばかりで、何の行動も起こそうとしなかった。




