追放は明るく楽しく
「みんなありがとう! お陰で間に合ったよ!」
僕は部下達をねぎらった。時間が経てば、本当の飼い主がいないことに獣達が気付き、勝手な行動を取り始める恐れがあるのだが、こればかりはそうなる前に次のテイマーの人が来ることを祈るしかない……
ともあれ、やることはやった。
夕方になり、僕達は打ち上げと称して、王都の街中に繰り出すことにした。幸い今日までなら、僕が王宮の魔獣を連れ回していても見咎められることはない。僕はバルマリクに跨り、ポルメーを頭に乗せた状態で王宮の正門を堂々退出し、部下達もそれに続く。
そして僕を先頭に、大通りのド真ん中を全員で練り歩いた。野生のドラゴンが市街地に現れたら大騒ぎだが、王宮のテイマーが乗っているので誰も怪しまない。中には公務でやっていると勘違いして、「ご苦労様です」と声を掛けてくる人までいた。
僕はさらに悪乗りし、人通りの多いところで停止すると、大声で叫んだ。
「王都の皆々様!」
バルマリクが空に向かって小さく炎を吐き、華を添える。何事ならんと足を止めた人達に向かって、僕は続けた。
「王宮テイマー、アシマ・ユーベックがお別れの御挨拶に参りました! 永きに渡る御愛顧に感謝申し上げます! マリーセン王国、王宮獣舎職員一同を、これからもどうぞよろしく!」
僕の言葉を聞いて、通行人達はざわめいた。
「お別れってどういうことだ?」
「獣の世話は大丈夫なのか……?」
「リーラニアとの戦で活躍したと聞いていたが、何故急に……?」
怪しむ人々を尻目に、僕達は行進を再開した。そして一軒の酒場に入ると、飲めや歌えの乱痴気騒ぎを始める。みんなはお酒だが、僕は飲めないのでジュースを浴びるほど飲みまくった。
夜も更けた頃、宴会はお開きになった。これで本当にみんなと会うのは最後だ。部下達は泣きながら、「舎長九千歳(万歳は国王陛下にしか使えないので千歳引いた)」を三唱してくれた。もちろん、僕も泣いた。
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「…………」
部下達と別れ、自宅に到着した僕は、バルマリクを停止させて家の外観を眺めた。准男爵家という貴族の末席ながら、僕が住んでいるのは庶民と変わらない普通の家だ。既に両親を亡くしていて、身寄りも無い僕には、広い屋敷は無用だった。
准男爵家に領地は無い。収入の全てを王宮テイマーとしての給金に頼っていた僕は、さしたる蓄えもなかった。使用人達に退職金を払ったら、いくらも残らないだろう。