護衛兵逃走中
「お、皇女殿下!?」
そんなお偉方だったとは。僕達は慌ててバルマリクから降りると、並んで跪いた。ただでさえ皇族に対する礼儀を欠くわけにはいかないのに、よりにもよって今から僕達が亡命しようとしているリーラニア帝国の姫君だ。黙って立ち去り、不興を買ったら一大事である。
顔を俯けて平伏していると、シャルンガスタ皇女殿下がこっちに歩いてきた。そして僕の前でかがむと、僕の手を取って引っ張り上げてくる。
「えっ?」
「さあ、お立ちください」
思わず立ち上がってしまう。皇女殿下は僕の手を握ったまま言った。
「アシマ様、ですね? 先程の見事なお働き、馬車の中から見ておりました。危ういところを救っていただき、お礼の申しようもございません」
「いや、あの、お見苦しいところを……」
「とんでもありません! アシマ様がおられなかったら、わたくし達の命は今頃どうなっていたことか……」
皇女殿下はなかなか僕の手を離さない。緊張で、動悸が激しくなってきた。その上、彼女のエメラルドグリーンの瞳に見つめられていると、何だか吸い込まれそうな感覚がしてくる。
「ああ……」
見つめ合っていると、突然マルグレーチェが立ち上がり、僕の後頭部を地べたに向けて押さえ付けた。
「ちょっとアシマ! 皇女殿下に失礼よ! ちゃんと跪きなさい!」
「いいえ! 良いのです! お立ちください!」
「跪きなさい!」
「お立ちください!」
「跪きなさい!」
「お立ちください!」
頭を押さえられ、手を引っ張られ、僕はバッタのように立ったり跪いたりを繰り返した。
その間にクナーセン将軍が立ち上がり、ローグ・ガルソンに尋ねる。
「ところで、辺境伯の兵だけで皇女殿下の護衛をしていたのか? リーラニア兵の姿が見えぬようじゃが……」
「そ、それが……つい先程までリーラニア兵も警護に当たっていたのですが、賊が襲って来た途端、姿をくらましてしまいまして……」
「何じゃと……?」
「残った我々は数も少なく、あわや全滅するところでございました。リーラニア兵は突然の事態に動揺してしまったのか……」
「あり得ぬ」
将軍は、即座に否定した。
「リーラニア兵の勇猛なことは、儂が一番よく知っておる。新兵ならいざ知らず、皇女殿下の護衛を任されるのは精鋭のはずじゃ。賊の襲撃に恐れをなして逃走するなどとは考えられぬ」
「「「…………」」」
沈黙が流れる。怖気付いて逃げたのでなければ、もしかして護衛のリーラニア兵は暗殺者と通じていた!?




