暗殺者の首領、テイマーの策にかかる
僕が頼むと、首領はまた少し考えてから頷いた。
「……分かった」
向こうにしてみれば、自分達が暗殺者だとはばれていないのだ。僕達を騙して誘き寄せ、一網打尽にするために、一度剣を納めるぐらいのことはしてもおかしくない。
首領は、剣を背中の鞘にしまった。とは言え、柄は右手で握ったままだ。さすがに油断はしない。
でも、これならどうかな?
僕はおもむろにズボンに手をやると、前を開いた。
「「「?」」」
首領始め、覆面達の目が僕の股間に注がれる。次の瞬間、大量の液体が僕のズボンの開きから飛び出し、首領の足元に降り注いだ。
「うわっ!?」
思わず右足を一歩引く首領。上体はやや、前かがみになる。僕はその隙を見逃さず、剣を抜き放つと、首領の右肘内側の腱を切り裂いた。
首領もさるもので、剣を抜きかけていた。きっと早抜きに自信があったのだろう。だが、元々僕の方よりも長い剣である上、腰の引けた不十分な体勢ではいかんともし難かった。僕の剣の方が先に届き、首領の右腕は使い物にならなくなる。
「ぐっ……」
僕は返す剣で、首領の左膝を斬る。さらに剣を振り上げ、左大腿の内側を斬った。そこを走る太い血管を切られた首領は立てなくなり、その場に座り込む。
「「「……!」」」
覆面の何人かが、僕に襲いかかる気配を見せる。僕は短く叫んだ。
「動くな!」
「「「!」」」
「動いたら首領の首を飛ばす! 全員武器を捨てて投降しろ!」
そう言うと、僕は首領の首筋に剣を当てた。覆面達の動きが止まる。僕はさらに、首領から目線を切ることなく言った。
「聞け! こちらに回復術師がいるのは本当だ! 投降すれば首領の命は助かる! 出血多量で死ぬまで猶予はないぞ! 早くしろ!」
すると、首領は苦しそうにしながら口を開いた。
「こ、殺さぬつもりか……?」
「まあ、依頼主のこととか、いろいろしゃべってもらわないといけないからね」
「知っていたのだな。我らが暗殺者であると……」
「そりゃあ……あれだけの剣技を見せられちゃ、ねえ……」
僕は少し、苦笑して見せた。すると、首領も微かに笑ったような気がした。
「してやられた……だが、我ら暗殺者に向かって投降せよとは、いささか侮り過ぎではないかな?」
「どういうこと?」
僕が聞き返すと、首領は鋭く叫んだ。
「撤退!!」
「!」
首領の号令で、覆面達は馬車から離れていった。僕は一瞬、それに気を取られてしまう。その間に首領は左手でナイフを出し、自らの首に突き立てていた。




