泥を落とせば
ジャールントの町に到着した僕達は、イノシシを降りて町の大通りを徒歩で行進した。イノシシは一頭だけ町の中まで連れていき、残りは町の外で待たせておく。
そして食料を売る店を見つけると、雑穀を買い付けた。その雑穀の袋をイノシシの背中に乗せ、僕は言う。
「ここまでご苦労様。助かったよ。みんなで食べてね!」
「BKII!」
イノシシは町の外に去っていく。僕達は町の宿に入ることにした。大きめの宿を借り切る形で占領し、交代でお風呂に入って汚れを落とす。その後、宿の人に料理を持って来てもらい、ささやかな脱出成功祝賀パーティーを開いた。
その席で僕はクナーセン将軍に近づき、言わなければいけないと思っていたことを切り出した。
「……将軍、申し訳ありませんでした」
「ん? 何がじゃ?」
「将軍が摂政に処刑されそうになったのって、僕のせいですよね? 将軍が僕の追放を取り消そうとして、摂政の機嫌を損ねたから……」
「…………」
将軍は少しの間黙っていたが、やがて首を横に振った。
「いや、そうではあるまい……」
「と、仰いますと……?」
「むしろ逆じゃ。儂がアシマを巻き込んでしもうたのじゃ。摂政の真の狙いは、この儂であったに違いない……」
「まさか、そんなことが……」
「儂は、リーラニア帝国との戦でいささか功を立て過ぎた。そのせいで、儂を政権中枢の高官に就けるべしと発言する者が出るようになったのじゃ。この年寄りに、さような大それた野心などないのじゃがのう……」
「存じております」
「しかし……儂がどう思おうと、摂政は儂を、己の地位を脅かす者とみなしたのじゃろう。儂もその気配は、薄々感じておった。とは言え、いきなりアシマを餌にして、儂の処刑を画策するとはのう……」
「将軍……」
確かに、いずれ将軍を国王陛下の近くで補佐とするよう推す声は、僕にも聞こえて来ていた。というか僕自身、そうなればいいのにと、僕と部下達しかいない場ではこっそり話していた。
そんな雰囲気を嗅ぎ付けた摂政が、休戦を機に先手を打って将軍の排除に動いたか。将軍の下、リーラニアとの戦に手柄のあった僕を追放すれば、将軍が異議を唱えることは十分予想できるから、それを利用することにしたのだろう。
「そういうことじゃ、アシマ。お主は何も自分を責めることはないぞ」
「そうよ。アシマが責任を感じることなんてないわ。悪いのはあの摂政なんだから!」
隣で聞いていたマルグレーチェが、将軍に同調した。




