摂政への置き土産
夕闇が迫り、城壁の上から地上の様子が見えなくなる頃、僕達は移動し始めた。バルマリクは森に残し、イノシシ達を引き連れて城壁に向かう。僕が一頭のイノシシに乗り、マルグレーチェを別のイノシシに乗せたところ彼女は落ちそうになったので、僕と同じイノシシに乗せ、後ろから掴まってもらった。
例のアーチ状に曲げた木は、一つずつイノシシの背中に乗せ、切った蔓で縛って運んだ。
城壁の外側に到着すると、本格的に穴を広げる作業にかかる。時間がないので、あまり広い穴は掘れない。やっと人が這って通れるぐらいの高さと幅にすると、僕は中に入って曲げた木を置き、天井が崩れないための支えにした。
ろうそくの類がなかったので、手探りでの作業を覚悟していたのだが、後から穴に入ってきたマルグレーチェが明かりを灯してくれた。暗い所で治癒魔法を発動させると、術者の手元に光が差すのだ。あまり強過ぎない光なので、穴の入口から漏れて上から見えるようなこともない。
程なく、モグラ達は穴の拡張を完了した。僕とマルグレーチェも穴への出入りを繰り返し、曲げた木を並べ終える。これでトンネルは完成だ。僕は空き家側に出て、待っていたみんなに、トンネルに入るよう促した。
僕を先頭に、トンネルの中を鎖のように続いてみんなで這い、城壁の外まで逃げ出す。当然、一人残らず泥だらけになるが、命には代えられない。全員が移動したのを確かめてから、僕はモグラ達に穴の両側を埋めるように指示した。そして、ミミズのふんだんなとある場所を示し、そこで存分に空腹を満たすように言う。
それから僕達はイノシシに分乗し、森でバルマリクと合流してからジャールントに向かった。相変わらずマルグレーチェだけは一人で乗れなかったので、ずっと僕の後ろにしがみ付いていた。
☆
「あの獣使いめ、儂の面子を潰しおって! 二人の首を晒すと民衆共に宣言しておきながら、郎党すら捕えられんとは示しが付かぬ」
「どうかお鎮まりを殿下……例の計画さえ成れば、面子などどうにでもできましょう」
「それはそうだが……」
夕刻、摂政はオルバック伯爵を伴い、馬車で自らの屋敷へと向かっていた。屋敷に到着すると、召使が血相を変えて報告してくる。
「だ、旦那様。お庭が……」
「庭がどうしたのだ? なっ……!」
庭を一目見て、摂政は絶句した。
美しく整えられていた自慢の庭は、至る所に大穴が開き、土が盛り上がり、見るも無残な姿に変わり果てていた。
これにて第一章は終わりとなります。次回から第二章です。




