摂政、テイマーにまた騙される
しばらくすると、摂政は机を蹴るのを止め、オルバック伯爵に指示を出した。
「全ての城門を閉鎖せよ。兵士共に王都内をくまなく探させるのだ!」
マリーセン王国の王都ヴェルニケウスは、高い城壁によって周りを囲まれている。その城壁の門を閉じれば、普通は誰も外に出ることはできないが……
「お、恐れながら殿下。向こうには空を飛べるドラゴンがおります。今頃は既に、空中から王都を脱出しているのではないかと……」
「ドラゴンの背に乗れるのは、あの獣使いとクナーセンの他にせいぜい数名が良いところだ。多くの郎党は未だこの王都に留まっておるはず。そ奴らを捕え、見せしめに処刑せよ!」
「な、なるほど……」
「加えて、王宮獣舎のドラゴンを追跡に出せ。クナーセン共も、まだ遠くまでは飛んでおるまい。獣舎のドラゴンをもって後を追わせ、仕留めるのだ!」
「ははーっ!」
退出したオルバック伯爵は、しばらくすると報告に戻って来た。
「いかがした?」
「そ、それが……獣舎の者共が申すには、今は獣共が暴れたり逃げたりしないようにするので精一杯だと……殿下が仰せになられた、百分の一の給金で働く新しいテイマーが来て、獣共をテイムし直すまで獣舎から一歩も出せぬと申しておりました……」
実際には、頑張ればドラゴンを空に飛ばすぐらいは可能であった。だが、獣舎の職員達がアシマを追跡するような任務に積極的になるはずもなく、言を左右してオルバック伯爵の要請を拒否したのである。
だが、摂政にはもちろんそれは分からない。自分自身で前のテイマーであるアシマを追放した手前もあり、あまり強く咎めることはできなかった。
「ぬうう……仕方のない奴らだ」
そのとき、一人の兵士が慌ただしく部屋に駆けこんで来た。
「摂政殿下に申し上げます! たった今、城壁の東門が襲撃されました!」
「な、何だと!?」
「テイマーを乗せたドラゴンが突然現れて、門の警備兵を追い散らしたとのことです! 近くには、礼服や仕事服を着た数十名の男女もいたとか。襲ってきたドラゴンは、そのまま城外に飛び去ったとの由!」
それを聞き、オルバック伯爵は顔色を変える。
「殿下、もしや……」
「うむ……あの獣使いめ。強行突破を図りおったな」
座っていた摂政は、頷いて立ち上がると、オルバック伯爵に命じた。
「王都内の探索は中止だ! 直ちに兵士共を東門から出撃させ、跡を追わせよ! 徒歩であれば、まだ近くにおるはず。一人残らず捕縛するのだ!」




