摂政大激怒
僕はバルマリクに小さな炎を出させると、そこにポルメーの凍った部分をかざして温めた。
「PUUU……」
スライムといえども、全体が凍りついてしまうと命が危険な状態になる。しかし、今回凍らせたのは体の一部、剣状に伸ばした部分だけだ。凍った部分を溶かし、元々凍っていない本体部分に取り込ませれば、元の大きさのスライムになった。
復活したポルメーは僕の肩に乗り、嬉しそうに鳴く。
「PUUU!」
「よしよし。酷いことしてごめんね。ポルメーのお陰で命拾いしたよ」
ポルメーの体を撫で、手柄をねぎらう。するとバルマリクが不服そうに頭を突き出してきた。
「GUAA!」
「バルマリクもありがとう。お前には助けられっぱなしだね……」
バルマリクの頭を撫でていると、後ろから声がした。
「あの、これはいかがしましょうか……?」
振り向くと、屋敷の人が摂政の剣と鞘を拾って持って来ていた。それを見てクナーセン将軍が言う。
「戦利品じゃ。その剣はアシマが持っておくが良い」
「えっ……しかし将軍。こんな宝剣は僕には……」
「儂には儂の剣がある。元の持ち主のあの男には、宝の持ち腐れじゃ。今回の功労者であるアシマが持つのがふさわしかろう……」
「…………」
少し迷ったが、結局僕は頷き、剣を受け取った。
さて、後はどうやって王都を脱出するかだけど……
☆
~摂政Side~
クナーセン将軍の屋敷を襲った兵士達は、ほうほうの体で王宮まで戻って来た。直ちに事の顛末が摂政まで伝えられる。摂政が激怒したのは言うまでもなかった。
「馬鹿なことを申すな! 戦闘に長けた特級魔道士であろう!? たかがテイマーの、しかも二級魔道士に後れを取るはずがない!」
摂政の私室まで報告を持って来たのは、摂政の腹心であるオルバック伯爵であった。背が低く小太りの中年であるオルバック伯爵は、摂政の怒気に触れ、ひたすら平伏していた。
「も、申し訳ございませぬ、殿下。私めといたしましても、特級魔道士がよもやこれほどの看板倒れとは思いもよらず……」
「いかにして負けたのだ? 戦いぶりを見た者はおらぬのか!?」
「そ、それが……幾人かの兵が戦いを見ていたのですが、『最初は遠くから魔法で攻撃していたのに、よく分からないうちに近づいて、よく分からないもので斬られた』と、まるで要領を得ない証言しか……」
「ええい! どいつもこいつも、役立たず共め!」
摂政は立ち上がり、目の前の机を蹴る。その額には青筋が浮かんでいた。




