終わって挟まれて
吹雪が収まっていく。フォリウスの視線は、僕の右手に注がれていた。
そして、ぽつりと口が開く。
「……スライムか」
僕は頷いて答えた。
「特級魔道士の氷魔法だからこそ、人を斬れるぐらい硬く凍らせられたよ」
吹雪を放たれる直前、左を向いたとき、僕はポルメーの一部を右手に集め、フォリウスとは反対方向に細長く、剣の形に伸ばしていた。スライムを剣の形に伸ばすだけでは人は斬れない。それを吹雪に浸すことで硬く凍らせたのである。
後は、吹雪が向きを変えて僕を追ってくる前に斬り付けるだけだった。さしもの特級魔道士も、自分が作り出した吹雪の中から突然剣が出て来ては、満足に防ぐことができなかったようだ。
「……見事だ」
フォリウスは両眼を閉じた。その両膝を地面に突き、ゆっくり前に崩れ落ちて行く。完全に倒れ切るのを見届けてから、僕も片膝を突いた。
「ああ……」
全身に痛みを覚えた。戦っている間は興奮と緊張で痛覚が麻痺していたのが、落ち着いたせいで戻ってきたらしい。
そのとき、後ろで屋敷の扉が開く音がした。
「アシマーっ!」
マルグレーチェの声だ。こちらに駆け寄って来る。首を回して振り向いたとき、僕はマルグレーチェに抱き付かれていた。
「むぐぐっ!」
「もう駄目かと思ったわ。良かった、アシマ……」
高さの関係で、当たってはいけないものが顔に当たっている。僕は慌てて言った。
「あ、あの、お嬢様。服が汚れますので離れていただいて……」
「ううっ……私達、アシマのお陰で助かったわ……」
マルグレーチェは僕の言うことを無視し、一層強く押し付けて来た。そこへクナーセン将軍と屋敷の人達もやって来る。
「マルグレーチェ。アシマは怪我をしておる。手当をしてやりなさい」
「はい。お爺様……」
マルグレーチェはようやく僕から体を離し、治癒魔法で僕の怪我を癒し始めた。
門の方を見ると、兵士達が一糸乱れぬ動きで整然と逃走している。フォリウスが倒されたことで、今度こそ完全に戦意を喪失したのだろう。
「アシマ。儂からも改めて礼を言うぞ。特に儂は二度、お主に救われた……」
「将軍……」
「しかしよもや、特級魔道士を一人で倒してしまうとはな……アシマにかような戦の才があるとは思わなかったわい」
「そ、そのような……」
やがてマルグレーチェの治癒魔法が終わり、怪我はすっかり治る。
「ありがとうございます。お嬢様!」
僕は口に指を当ててピーッと音を鳴らし、裏口にいたバルマリクを呼んだ。




