凍れる刃、特級魔道士を切り裂く
フォリウスの目つきが変わった。鋭い視線を僕に浴びせつつ、問い掛けて来る。
「ドラゴンは逃げたのではないな? 裏口の兵士共を襲いに向かわせたのか?」
「……テイマーの代わりなんて、いくらでもいる。でも、王国の守護者クナーセン将軍の代わりはいないからね」
「自分を犠牲にして私を足止めし、その間にクナーセン達を裏口から逃がそうと言うのか!?」
「遠くから、チマチマ攻撃してくれてありがとう。おかげで将軍は無事脱出できそうだよ」
もちろんこれは嘘だ。僕がフォリウスを防いでいる間に、将軍が逃げるような段取りはしていない。おそらく将軍は今、マルグレーチェの手当てを受けながら戦線復帰の機会を窺っていることだろう。
嘘をついたのは、フォリウスを焦らせるためだ。愚図愚図していたら将軍を取り逃がしてしまう。そう錯覚させたかった。口で言うだけでは信じないかも知れないので、バルマリクに裏口の兵士達を襲ってもらったのである。
それに加えて、先にもう一つ、僕はフォリウスの錯覚を促していた。摂政の剣をわざと取り落とし、拾おうとすることで、もう僕に武器はないと印象付けたのだ。
さあ、どうする、特級魔道士?
同じ戦い方を続けてたら、将軍に逃げられて摂政に怒られちゃうよ?
それに僕は武器を持っていないんだよ? ちょっとぐらいなら近づいても大丈夫じゃないかなあ?
駄目押しに、僕は足がふらつく様子を見せた。これは演技だけではない。何発も氷塊の打撃を受けていて、ダメージが大きいのは事実だ。正直、もうあまり長くは動けない。
「貴様……」
フォリウスが、顔を怒りに歪ませる。そして、足を一歩前に踏み出した。
はい、一名様、御案内。
「二級魔道士にしては、良く考えたものだ。だが、そうと分かった以上、もう時間はかけぬ。今すぐに貴様を倒せば、クナーセンに十分追い付ける!」
僕は左を向き、半ば逃げ腰の姿勢を見せた。フォリウスは駆け出し、一気に間合いを詰める。そして両手を前に出し、僕めがけて吹雪を放った。
「全凍冷気砲!」
そうだよね。
他にも魔法はあるのかも知れないけど、近づけるならそれで僕を凍らせるのが一番手っ取り早い。
後ろに跳ぶようにして、吹雪を躱す。
「フハハハ! 終わりだ! 獣使……」
勝ち誇るフォリウス。だが、その言葉が最後まで紡がれることも、吹雪が向きを変えて僕を追うこともなかった。
僕の右手から伸びた、人の背丈ほどの長さの剣が、フォリウスの喉を切り裂いていた。




