紅い餌、小さな釣り針
「GUOAA!」
バルマリクが咆哮と同時に飛翔した。口を開けて上空からフォリウスに襲いかかり、噛み付こうとする。
「学ばぬトカゲだ。全凍冷気砲!」
吹雪を放たれたバルマリクは、辛うじてそれを躱した。そして向きを変え、屋敷の上まで逃げていく。さらに屋根を這って姿を消した。
「バルマリク!」
「ハッ! 主人を見捨てて逃げ出すとは、情けない使い魔もあったものだ。もっとも、このフォリウスとの戦いを避けたのは、賢明と言えるがな。非は無謀な戦いを命じた主人にある」
嘲笑うフォリウス。僕は剣を振りかざし、フォリウスに走り寄る。
「うおおおお!」
「そして主人は獣にも劣る考えなしか。自在氷攻弾!」
たちまち、十数個の氷塊が凄まじい勢いで飛んできた。僕は横に転がって避ける。いくつかが命中したが、全弾命中は免れた。
「ぐうう……」
立ち上がって、剣を構え直す。フォリウスは怪訝そうに言った。
「はて? 何発かは直撃したはずだが……見かけによらず頑丈だな」
「意外と大した威力じゃないね。本気で撃ってる?」
「ほざけ!」
また、氷塊の一群がぶつけられた。後ろに跳んで避けるも、氷塊の一つが手首に当たり、僕は剣を取り落としてしまう。
「ぐあっ!」
慌てて拾おうとしたが、別の氷塊が剣を跳ね飛ばした。剣はフォリウスの近くに落ち、フォリウスは剣を足で踏み付ける。
「ああっ!」
「これで武器もなくなったという訳だ。最早戦う方法もあるまい。覚悟!」
三度、氷塊が襲ってきた。僕は両腕で頭をガードする。そして衝撃で薙ぎ倒され、地面の上を滑走した。
「がああああ!」
着ていたローブが、擦れてズタズタになる。立ち上がってローブを脱ぎ捨てると、フォリウスは感心したように言った。
「ほう……なるほど。スライムを身に纏って衝撃をやわらげていたという訳か」
僕はポルメーの体を分割し、心臓やアバラ、背骨に鎖骨といったような急所をガードさせていた。おかげで氷塊の直撃を喰らっても、戦闘不能にならなかったのだ。
「……だが、そんなものは時間稼ぎにしかならぬ。私の自在氷攻弾を受け続ければ、苦しみが長引いた末に死ぬだけだ」
「時間稼ぎにしかならない、ね……ふふっ」
ここで僕は、フォリウスに笑って見せた。
「何がおかしい?」
「さあね……」
そのときである。屋敷の裏手からバルマリクの吼える声と、兵士達の悲鳴が聞こえて来た。
「GUOOO!」
「うわあああ! またドラゴンだあ!」
「今度こそもう駄目だあ!」




