西部方面軍の思惑を探る
クナーセン将軍が口を開いた。
「辺境伯家の禁忌とあらば、話せなかったのは致し方あるまい。しかし解せぬな。フェンラートの一族しか知らぬ神獣の封印場所を、何故西部方面軍が知っておる……?」
確かにそれは気になるところだ。僕は辺境伯に訊ねた。
「西部方面軍の偵察兵が近くを巡回するうちに、偶然見つけたとは考えられないでしょうか?」
「いや……私も若い頃、父上に連れられてその封印の場所に行ったのだが、目印のようなものは何もなかった。あらかじめ正確な場所を知らぬ限り、何人も見つけることはできぬはずだ……」
「「「…………」」」
沈黙が流れる。偶然見つけるのが不可能なら、辺境伯家の誰かが漏らした可能性も出て来てしまうけど……
僕のそんな思いが伝わったのか、辺境伯は言った。
「皆にこれだけは申しておく。家の秘密を敵に漏らすような不届き者は、当家に一人としておらぬ。私の首を賭けても良い」
「もちろん、閣下の仰せの通りでございましょう」
僕は頷く。辺境伯家の誰かが漏らしたかも知れないとは言っても、あくまで可能性の一つだ。古くから伝わっている秘密だけに、いつの時代に漏れたのかさえ、今は分からない。これといった根拠もないのに、辺境伯の一族を犯人扱いするわけには行かなかった。
続けて僕は、辺境伯に言う。
「いかにして西部方面軍が知ったかは措いておくとして、問題は西部方面軍の狙いかと」
「うむ……」
「もしかしたら、西部方面軍は神獣を蘇らせるつもりかも知れません。封印された神獣は、暴れ出さないように休眠状態に置かれているはず。神獣を目覚めさせる方法は、閣下のお家に伝わっておりましょうか?」
「いや……」
辺境伯は、首を横に振った。
「神獣を目覚めさせる方法は、この私ですら知らぬ。誰が封印の場所を漏らし伝えたにしろ、西部方面軍にも分からぬはずだが……」
「であれば、虚仮脅しか」
「クナーセン……」
「西部方面軍は兵を失い、分断され、士気は大いに下がっておる。帝国に投降する者も出始めたほどじゃ。これ以上の士気の低下を防ぐため、神獣を復活させると見せかけ、儂らに差し向けることで戦局を逆転させられると、味方に吹聴しているのではあるまいか? 今の西部方面軍なら、誰かが考えそうなことじゃ」
安堵したような空気がその場に流れた。確かに、クナーセン将軍の意見には理がある。しかし僕の胸には、昨日投降してきた、テーゼラー卿の随行員の言葉が引っかかっていた。




