秘書は皇女様
「こ、これは殿下!」
シャルンガスタ皇女殿下が入ってきたのを見て、僕は慌てて立ち上がった。そんな僕を、殿下は手で制する。
「アシマ様、どうかそのままで」
「いや、しかし……」
「アシマ様の陣営が設けられたと聞き、何かお手伝いはできないかと思い参りました。よろしければ、アシマ様の秘書でもさせていただきたいと思うのですが……」
「それはお許しを……皇女殿下にそのようなことをさせては、皇帝陛下からお叱りをいただいてしまいます……」
「ご心配には及びません。父上にはわたくしからよく申し上げておきますので」
「で、でも……皇女殿下の格式が……」
「お言葉ですが、戦場では格式など何の役にも立たないかと。皇族であろうと平民であろうと、力及ばねば敵に敗れて死ぬもの……リーラニア帝国の命運を決する戦いは目前。皇族だからといって、何もせずにはおれません」
「えぇ……」
そんなことを言っている間に、お付きの人が椅子を持って入ってきた。そして椅子を僕のすぐ右隣りに置き、いなくなってしまう。皇女殿下はその椅子に座った。
「皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
「「「ははーっ!」」」
座ったまま皇女殿下に頭を下げる団員達。誰も殿下を止めようとしない。どうやら殿下が、僕の秘書になるということで決まってしまったようだ。
僕は諦めて、団員達に話し始めた。
「……みんな、ここまでよく働いてくれた。おかげで戦の流れは、大きくこっちに傾きつつある。皇帝陛下もみんなの忠勤ぶりには、いたくお喜びだ。ただ、敵のギーブル伯爵もさる者。追い詰められて何を仕掛けてくるか分からない。反乱が完全に鎮圧される日まで気を緩めることなく、引き続き任務に励んでほしい」
「「「承りました、団長!」」」
団員達が唱和する。そのとき、マルグレーチェが部屋に入ってきた。
「アシマー! 陣営できたんですって? 手伝いに来たわよ」
それを見た皇女殿下は、血相を変えて立ち上がる。
「ここは関係者以外、立ち入り禁止です! 部外者はすぐに出て行きなさい!」
「何ですって!? 私だって皇帝陛下のお許しを得て従軍してるんです! 言わば竜騎士団付の回復術師! それを部外者とはどういう了見ですか!?」
皇女殿下に詰め寄り、負けじと怒鳴り返すマルグレーチェ。殿下はさらに額に青筋を立てる。
「この無礼者、何を!?」
「そっちこそ何ですか!?」
「わああ! 待って待って!」
僕は慌てて立ち上がり、二人を引き分けたのだった。




