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捨て身のラグハス

「『余がカルデンヴァルト再侵攻を命じた事実はない。皇帝軍のカルデンヴァルト到着までに投降すれば助命とする』と言ってきおったか! あの若造め、少し優勢になったからといって調子に乗りおって!」


皇帝の書状を読み終えたギーブル伯爵は、顔を赤くし、内容を記した添え紙もろとも破り捨てた。対照的にラグハスは、落ち着いて話す。


「使いの者は、砦の主にと申してこの書状を持参いたしました。おそらく、他の砦にも同じものが届いておりましょう」

「であろうな……誰か!」

「はっ!」


進み出た兵士に、ギーブルは命じた。


「急ぎ各砦に伝令を出せ。皇帝より届いた書状は我らを欺き、騙し討ちにせんとするもの。ゆめゆめ甘言に乗ってはならぬとな!」

「御意!」


兵士が退出すると、ラグハスとその部下もギーブルの部屋を出る。ラグハスは小声でつぶやいた。


「さて、伝令ごときで兵士達をつなぎ止められれば良いが……」


 ☆


ラグハスの不安は的中した。翌日、一つの報告がメリゴサ砦にもたらされる。その内容はカルデンヴァルト南部の砦にて、一部の守備兵が独断で持ち場を離れ逃亡したというものだった。


これは捨ててはおけないということで、ギーブルは主だった者を集めて軍議を開いた。参加者達は口々に意見を述べる。


「時が経てば、他にも離脱者が出る恐れがあります。いっそ今のうちに砦を出てリーラニア領に戻り、皇帝軍との決戦に臨んでは?」

「危険過ぎる! バワーツ、シャドガンの両砦には、1万近い敵勢がおるのだ。我らが砦を出てリーラニア領に向かえば、背後を突かれるは必定!」

「しかし、このままでは……」


軍議はなかなかまとまらなかった。そこへラグハスが発言する。


「司令官閣下。我が方が戦力を残している今ならば、皇帝陛下と交渉する余地があるのではないでしょうか?」

「何? 交渉だと?」


(いぶか)るギーブルに、ラグハスは答えた。


「そうです。皇帝陛下に我らの首を差し出すと伝え、引き換えに西部方面軍兵士達の生活を保障するよう要求するのです。受け入れられれば、我らの目的は達成されます。拒絶されたときは、玉砕を覚悟の上で決戦を挑みましょうぞ」

「馬鹿な! 皇帝の首を取りこそすれ、首を差し出すなどできるか!」

「しかし……こう申しては何ですが、もはや我らに勝ち目は……」

「ある」

「……?」

「勝ち目はあるぞ。最後の一手。起死回生の秘策があるのだ」

「「「?」」」


思いがけない言葉を聞き、全員が一斉にギーブルを見た。

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