一難去ってまた一難
「逃がすな!」
屋敷の人達が、逃げて行った敵兵に追撃をかけようとする。クナーセン将軍はそれを制止した。
「待て! 深追いするでない!」
将軍の呼びかけで落ち着きを取り戻したのか、屋敷の人達は立ち止まった。そして将軍の周りに集まって来る。
「旦那様、生きておられたのですね!」
「てっきり、処刑されたものとばかり……」
「心配をかけたな。あそこにいるアシマに、儂は救われたのじゃ」
そう言って将軍は、空を飛んでいた僕を指差す。僕はバルマリクを庭に着陸させ、その背中を降りて将軍の方へ向かった。
「お爺様!」
マルグレーチェも、将軍の元に駆け寄って来る。将軍はマルグレーチェを抱き締めた。
「マルグレーチェ……怖い思いをしたであろう。もう大丈夫じゃ……」
「お爺様……よくぞ御無事で……」
それからマルグレーチェは、僕の方に歩み寄って来た。
「アシマ! お爺様を助けてくれてありがとう……」
「は、はい……」
涙ぐみ、両手で僕の手を握るマルグレーチェ。何だか恥ずかしい。
将軍が、改めてみんなに呼びかけた。
「皆、良く戦ってくれた。長居は無用じゃ。じきにまた、摂政の新手がここへ攻め寄せて来よう。その前に……」
そのときである。門の外側で数名の男が悲鳴を上げるのが聞こえた。
「ぎゃあああ!」
「た、助け……」
「「「!?」」」
見ると、一人の男が門から入って来るところだった。三十代ぐらいか。背は高く、白く長いコートを着ていて、髪は銀色だ。
男は口を開いた。
「これはこれは、クナーセン将軍。ユーベック卿もお揃いですな。将軍がここにいるということは、摂政は処刑にしくじって取り逃がしたか……」
「何奴じゃ?」
将軍の問い掛けに、男が答える。
「私は特級魔道士フォリウス。以後お見知りおきを」
魔道士はその技量に応じて、各国の魔道協会がランク付けをする。五級からランクが上がって行き、普通は一級までだ。ちなみに僕は二級魔道士。
特級は滅多にいない。そのランクということは、相当な実力の持ち主ということになるが……
それはそうと、クナーセン将軍は怪訝そうに言った。
「何? 特級魔道士フォリウスじゃと……?」
「御存知ないのも無理はない。私は王室魔道士ではなく、摂政個人に雇われているのでね」
その言葉に危険なものを感じ取ったのか、将軍は使用人に向かって鋭く叫ぶ。
「マルグレーチェを中へ!」
「お爺様!」
「お嬢様、さあ!」
使用人は、マルグレーチェを慌ただしく中へ引っ張って行った。




