皇帝からの書状
翌日。シャドガン砦の元守備隊長であるラグハスは、数名の部下と共にメリゴサ砦の城壁の上に立っていた。周囲では戦闘も起きておらず、人の騒ぐ声も聞こえない。ともすれば、戦の渦中にある地域であることを忘れるほどの平穏さであった。
部下の一人がつぶやく。
「この戦、これからどうなるのでございましょうか……」
「どうなろうと、我らは力を尽くすのみだ」
ラグハスは短く答えた。しばし沈黙が流れる。
不意に、部下が空を指差した。
「ラグハス様、あれを!」
「!?」
見ると、竜に乗った竜騎士が1騎、空から近づいてくるところであった。味方の竜騎士は全滅しているので、敵であることは明らかだ。
「旗を振っております。どうやら軍使のようでございますな」
「そのようだな……」
前からいた砦の守備兵も、近づく竜騎士を追い払おうとはしなかった。そうこうしているうちに、竜騎士は城壁の上に舞い降りる。ラグハスは声をかけた。
「何用か?」
「敵陣ゆえ、騎竜のままにて御無礼仕る。この砦の主に書状を持参いたした」
「そうか……誰か受け取れ」
「はっ!」
一人が進み出て、竜騎士から書状を受け取った。竜騎士はラグハスに告げる。
「極めて重大な話ゆえ、よくよく考慮あれとお伝え願いたい!」
「承った!」
ラグハスが答えると、竜騎士は空に舞い上がり、去っていった。書状を受け取った部下が、早速それをラグハスに差し出す。
「こ、これは……!」
書状を収めた封筒には、リーラニア帝国皇帝の紋章が入っていた。さしもの沈着なラグハスも、驚きの声を上げる。さらに、封筒には1枚の紙片が添えられていた。
「ラグハス様、この紙は……?」
「書状の内容を記したものであろう。我らは敵から受け取った書状を開けずに、司令部に提出することになっている。敵はそれを知っているのだ。書状の内容を知った上で、通達に従い司令部に提出するか、あるいは逆らって封を切るか選べというのであろうな」
「ということは、まさか……」
「その通りだ。同じものがカルデンヴァルトの各砦に届けられているに違いない。書状の内容を知った守備隊長達が、どう出るか……」
「何と……これもアシマ・ユーベックの策なのでしょうか……」
「おそらくはな……さあ、我らは通達に従い、司令官閣下にお届けするとしよう」
「「「はっ!」」」
ラグハス達はギーブル伯爵の部屋を訪れ、書状を提出する。その内容は、敗戦続きで苛立つギーブルを一層不機嫌にさせるものだった。




