西部方面軍司令官の怒り
~西部方面軍Side~
帝都へ報告に赴いた竜騎士が帰路に就いた頃、カルデンヴァルト北方の砦ではギーブル伯爵が寝台に横たわっていた。
「ううう……」
「閣下! お目覚めになられましたか!?」
側に立つ参謀ファルテン子爵が声をかける。ギーブルはうなされているようだった。
「ううう……お祖父様……父上……御覧くだされ……」
「閣下、どうなさいました!?」
「カルデンヴァルトを、この手に取り戻しましたぞ……先祖代々の無念も、これで……ううう……」
「閣下!!」
「はっ!?」
ようやくギーブルは目を覚ました。我に返って体を起こしたところで、ファルテンに気付く。
「ファルテンか……」
「はっ……閣下、大丈夫でございますか?」
「うむ……大事ない。ここはどこだ?」
「メリゴサ砦にございます。カルデンヴァルト北方の……」
「そうか……儂はどれくらいの間、気を失っておったのだ?」
「一昼夜ほどお休みに……」
「何? そんなにか……」
「お疲れが溜まっていたのでございましょう。しばらくは御安静になさいませ」
「うむ……いや、その前に戦況を聞こう。儂が気を失った後、どうなった?」
「はっ……」
ギーブルは体を動かし、寝台の縁に座った。それを手伝ってから、ファルテンは話し始める。
「閣下がお倒れになった後、軍はすぐ総崩れとなりました……ラグハス将軍が残った兵を率い、この砦まで撤退いたしましてございます。独断専行の撤退ゆえ、閣下がお目覚めになったら軍法に従い裁きを受けると将軍は申しておりました」
「いや、撤退は致し方あるまい……して、我が方の損害はどれほどだ?」
「それが……辺境伯軍と皇帝軍の追撃激しく……数千を失いましてございます。負傷者の数も多く、目下、回復術師達が全力を挙げて治療を……」
「くっ、それほどか……」
ギーブルは天井を仰ぐ。決して、手も足も出ずに敗れたわけではなかった。敵の狙いがシャドガン砦にあることは見抜いていたし、マリーセン国王軍も存分に追い散らした。砦は奪われたものの、取り戻せるはずであった。だが、予想よりもはるかに多い数の皇帝軍が現れたため土壇場で逆転されたのだ。あれさえなければ……
「ぬうう……アシマ・ユーベックめ! どうやって兵を運んだのか知らぬが、どこまでも儂の邪魔をしおって!」
「閣下、そのあたりで……」
怒りに震えるギーブルを、ファルテンがなだめる。しばらくして少し落ち着きを取り戻したギーブルは、再び寝台に横たわった。




