帝都への報告
リーラニア帝国、帝都ホリンズグルッフ――
アシマ達がシャドガン砦前で西部方面軍を破った翌朝、宮殿の謁見の間において、アシマの部下である竜騎士が一人、皇帝ガルンディウス7世の前に跪いていた。
「申し上げます。我々第1特別近衛竜騎士団は、ゾンドルム将軍率いる皇帝軍先遣隊と合同してシャドガン砦を奪取。さらに西部方面軍の主力を撃破し、数千の損害を与えました。司令官ギーブル伯は、カルデンヴァルト北方に逃れております」
「「「おおお……」」」
居並んだ廷臣達がざわめく。数日前には、西部方面軍の竜騎士隊を全滅させた知らせが届いていた。さらなる勝報に、皇帝も満足気に頷く。
「うむ……見事な働きである。しかし竜騎士団と先遣隊だけで、よく砦を奪えたものよ」
「はっ……アシマ団長の立案された兵員輸送作戦が功を奏し、通常よりも多くの兵を先遣隊としてカルデンヴァルトまで運ぶことができました。これが西部方面軍の不意を突きましてございます。さらに団長の説得により、マリーセン国王が自ら囮となって西部方面軍主力を引き付け、お陰で我らは手薄な砦を奪取できた次第」
「そうか……アシマがまたやってくれたか……まさに、皇室魔道士の名に恥じぬ功績である。嬉しく思うぞ。後程勲章を授けるゆえ、引き続き忠勤に励むようアシマに伝えよ」
「お言葉、しかと賜りました!」
続けて竜騎士は言う。
「恐れながら、そのアシマ団長とゾンドルム将軍の両名より、陛下に上奏がございます」
「苦しゅうない。申せ」
「はっ……シャルンガスタ皇女殿下の殺害を企てし司令官ギーブル伯の極刑は免れ難しといえども、その配下はギーブル伯の命に従っているのみ。内心、陛下にお手向かいするに忍びなき者も多いかに思われ、願わくば陛下の御名において、西部方面軍の将兵に今一度投降を促したいと、両将軍の嘆願でございます」
「……良かろう。リーラニア人の血が無為に流れるは、余も本意ではない。皇帝軍の本隊がカルデンヴァルトに達する前にリーラニア領に帰還し、投降いたせば、その者は助命といたす」
「ははっ」
「投降を促す書状を、急ぎ認める。その方らの手でカルデンヴァルトの各砦に送り届けるが良い」
「両将軍に成り代わり、陛下に感謝いたします!」
竜騎士は深々と平伏した。
直ちに秘書によって書状が作成される。皇帝のサインが書かれ御璽を捺されたそれらの書状を持ち、竜騎士は大急ぎでカルデンヴァルトへ舞い戻るのだった。




