作戦の終わり
西部方面軍の軍勢は、司令官であるギーブル伯爵を護りつつ、北へ北へと逃げていった。それを空から追う、僕達竜騎士団と王宮獣舎のドラゴン達。双方の間に、激しい矢と石の応酬が続いた。
「放て! 放て!」
「逃がすな! 回り込め!」
「敵の矢に気を付けろ!」
竜騎士達の叫ぶ声がする。一方、敵も必死だった。逃げながら一斉に矢を撃ち上げ、僕達を近づけまいとする。距離を取っての撃ち合いが続いた。
振り返ると、地上でも凄惨な追撃戦が繰り広げられている。辺境伯軍とリーラニア帝国皇帝軍の先遣隊が、逃げ遅れた西部方面軍の兵士を次々に討ち取っていた。
そして、ラッパの音が戦場に鳴り響く。クナーセン将軍が追撃中止の合図を出したのだ。
「ここまでだね……みんな、引き揚げるよ!」
「「「はっ!」」」
僕の指示で、一斉に反転する竜騎士達。この戦場では僕達が優勢だけど、カルデンヴァルトの各砦には西部方面軍の大軍がまだ控えている。彼らが救援に来るかも知れないし、バワーツ砦、シャドガン砦をあまり長い間空けておくのも良くない。追撃になったら深追いせず早々に切り上げようと、あらかじめクナーセン将軍と話していたのである。
それでも、討った敵はかなりの数だ。戻りながら下を見下ろすと、道は敵兵の亡骸で足の踏み場もないほどになっていた。隣を飛んでいた副長のデーグルッヘが言う。
「またしても、団長の計略が見事にはまりましたな……これほどの被害を出しては、さしものギーブル伯も手痛うございましょう」
「うん……」
デーグルッヘの方を向いて、僕は頷く。ギーブル伯爵本人は討てなかったけど、シャドガン砦を押さえ、西部方面軍の主力を何千人か倒した。皇帝軍の本隊が到着した暁には、かなり有利に戦えるだろう。
そうだ。もう少し。もう少しで役目を果たせる。
その役目とは、皇帝陛下から与えられた、反乱軍討伐の役目のことだけではない。
マリーセン王宮でどちらかと言うと日陰者だった僕は、クナーセン将軍に抜擢され、カルデンヴァルト防衛に加わって名を上げることができた。そのときから、このカルデンヴァルトを護ること自体が、僕の中では大切な役目になっていた。その役目を、ようやく果たすことができるのだ。
「…………」
ふと下を見ると、負傷した味方の兵士達が担架で運ばれていた。その中にマルグレーチェがいて、歩きながら回復魔法で治療をしている。僕達は進路を変え、彼女と負傷兵達の上を飛んで警護した。




