西部方面軍の敗走
近衛竜騎士団と王宮獣舎のドラゴン総勢百頭は、西部方面軍の上空に躍り出た。竜騎士達は弓に矢をつがえ、次々に敵兵を射抜いていく。王宮獣舎のドラゴンには、用意してあった大きな石を口にくわえてくるよう、僕は命じていた。そしてドラゴン達に、その石を敵兵めがけて投げ落とさせる。運悪く当たった者は、一溜りもなく押し潰された。
「ぐわっ!」
「ぎゃああ!」
「がふっ!」
前後を敵に挟まれていた西部方面軍は、上空からも攻撃されてさらに混乱した。辛うじて保っていた隊列が乱れていく。その好機を見送るクナーセン将軍ではない。自ら騎馬の一団を率いると、先頭を切って西部方面軍の最前列に斬り込んだ。
「皆の者、敵は空からの攻めに気を取られておるぞ! この隙に一気に切り崩すのじゃ!」
斬り込まれた敵の最前列は、あっという間に崩れた。後退する兵士が続出し、それを見たギーブル伯爵が叫ぶ。
「何をしておる! 退くな! クナーセンを殺せ! アシマ・ユーベックを撃ち落とせ!」
しかし、いくら叫んでも西部方面軍の旗色は悪くなるばかりだった。逆上したギーブル伯爵は、剣を抜いていきり立つ。
「ええい、もう良い! かくなる上は、儂自らクナーセンを討ち取ってくれるわ!」
「な、なりません、司令官閣下!」
「お止めください!」
引き止める部下を振り切り、ギーブル伯爵は馬の腹を蹴って突進した。そしてクナーセン将軍の前に出ると、大声を張り上げる。
「クナーセン、勝負だ! まずは貴様の首からもらい受けてくれる!」
「ギーブル伯! 愚かな……」
2人の剣が交差する。腕前の差は明らかだった。数合斬り結んだ後、ギーブル伯爵はクナーセン将軍に剣を跳ね飛ばされる。
「ふんっ!」
「ぐわっ!」
さらに兜の上から剣で殴打され、ギーブル伯爵は落馬した。追い付いてきたギーブル伯爵の部下が、慌てて割って入る。
「いかん! 司令官閣下をお救いせよ!」
部下達はクナーセン将軍の前に立ちふさがる。別の者はギーブル伯爵を引きずっていった。司令官が気絶したことで、ついに西部方面軍の全体が崩れ始める。敵の指揮官の1人が叫んだ。
「撤退! 撤退だ! もはやこれ以上は戦えん! 引き上げるぞ!」
「ラグハス様!」
「北上して他の部隊と合流する! 私に続け!」
ラグハスと呼ばれた指揮官の指示で、西部方面軍は撤退を開始した。殿に矢を放たせこちらを牽制しながら、北へと逃れていく。僕達は1人でも多くの敵を討ち取るべく、追撃に移ったのだった。




