スライム高度計
兵士達がしっかり掴まったのを確かめてから、僕は号令をかけた。
「第一特別近衛竜騎士団、出発!」
「「「おおっ!」」」
竜騎士団員達が次々に離陸する。地面をわずかに離れた彼らは、一列に連なり、地表すれすれで街道沿いを飛んでいった。
「おおお……」
常識的な数の倍以上、兵士を乗せて飛んでいくドラゴンを見て、後ろのゾンドルム将軍が感嘆の声を漏らす。竜騎士団のドラゴンが全て飛び立つと、僕は王宮獣舎のドラゴンを飛翔させた。王宮獣舎のドラゴンも無事に飛んでいくのを見届けてから、僕はゾンドルム将軍に声をかける。
「飛びます!」
「お頼み申す!」
僕はバルマリクを飛翔させた。先に飛んだドラゴン達と同じように低く飛び、彼らを追い抜いて先頭に出る。そのまま僕達は縦一直線の編隊となり、ギーブル伯爵領の手前にある集結地点を目指した。
「少しずつ速度を上げていきます。しっかり掴まっていてください!」
「承知した! しかしユーベック殿、私も竜騎士を使うことはよくあるが、このような竜の飛ばし方は見たことがない。これなら誠に、5千の兵を運べるな……」
「ええ……」
ゾンドルム将軍の言葉に、僕は頷いた。
鳥を観察していると、あまり羽ばたかずに地面や水面の近くを滑るように飛んでいることがある。詳しい理屈は分からないのだが、翼を持つ者が地表近くを飛ぶと、地表と翼の間に挟まれた空気が弾力を産んで、翼を強く空中に押し上げるらしい。僕はその現象を利用して、ドラゴン達を高く飛ばさず、地面近くで羽ばたかせることで、普通よりも多くの兵士を運ばせようとしていた。
もちろん、低過ぎる高さを飛ぶのは非常な危険を伴う。一歩間違えば地面に接触して、墜落してしまうだろう。その危険を抑えるため、僕はテイムしたスライム達に協力してもらっていた。一定の長さに切り揃えたロープをドラゴンの下から垂らし、その先に水滴型に変形したスライムを吊るしている。そうしておいて地面が近づき過ぎたら、スライムが鳴いて危険を知らせるという仕掛けだ。
とは言え、竜騎士団の団員も王宮獣舎のドラゴンも、この飛び方をするのは今回が初めてで、危ないことには違いない。そのためいきなり全速力では飛ぶことはせず、最初は遅く飛んで、慣れたら少しずつ速度を上げていくことにしていた。
無理を控えた甲斐あって、僕達はどうにか事故を起こさず飛ぶことができた。そして暗くなる前に、目的地の集結地点に到着したのである。




