西部方面軍、挟み撃ちに遭う
「馬鹿な! シャドガン砦が奪われただと!?」
「皇帝軍が何故ここに……?」
帝都を出発した皇帝軍がカルデンヴァルトに到着するには、まだしばらく日数がかかるはずであった。いるはずのない皇帝軍の出現に、西部方面軍の将兵達は慌てふためく。
だが、司令官ギーブル伯爵は落ち着きを取り戻していた。彼は大音声で部下達を叱責する。
「うろたえるな!!」
「「「!?」」」
「おそらく奴らは、竜を使って兵を運んだのであろう! それならば、予定よりも早く皇帝軍が現れたとしても不思議はない。だが!」
「「「……?」」」
「1頭の竜に、完全武装の兵は3人しか乗れぬ! 加えて一部の竜には、戦に必要な兵糧や物資を運ばせたはず! 百頭の竜が夜を日に継いで飛び続けたとしても、運べた皇帝軍の数は2千を割っておるはずだ!」
「司令官閣下……」
「皆、怯むな! 2千に満たぬ兵でいかにして砦を乗っ取ったのかは知らぬが、今、我らが攻め寄せれば砦は奪い返せる!」
「「「…………」」」
途中で多くの味方と別れたとはいえ、シャドガン砦の前に集まっている西部方面軍は万単位の数である。ギーブルの説明に、部下の将兵達も混乱から立ち直りかけた。それに勢いを得て、ギーブルはさらなる檄を飛ばす。
「者共、攻めかかれ! ゾンドルムとアシマ・ユーベックを討ち取り、皇帝軍の兵も皆殺しにするのだ!」
「お待ちください司令官! あれを!」
「!?」
部下の1人の声に、ギーブルは後ろを振り返った。見ると、少し離れた森から、数千のカルデンヴァルト辺境伯軍が隊列を組んで出てくるところである。甲冑に身を固め、騎乗したクナーセンがその先頭に立ち、ギーブルをまっすぐに見据えていた。
「ぬうう、クナーセンめ……砦を出て我らの背後を狙うとは小癪な! 良かろう! 先に貴様の首級を上げてくれるわ! ラグハス!」
「はっ!」
「一部の兵に砦を警戒させよ! 残った全ての兵で辺境伯軍を殲滅する!」
「御意!」
ギーブルは大半の兵を反転させ、辺境伯軍めがけて突撃させた。そして両軍がぶつかった瞬間、側近くの兵がギーブルに向かって叫ぶ。
「司令官閣下! シャドガン砦から皇帝軍が!」
「分かっておる! 既に警戒に当たらせておるゆえ、案ずるな!」
「はっ……い、いや、あれは……」
「どうしたと言うのだ……なっ!?」
シャドガン砦に目を向けたギーブルは、再び驚愕した。砦を出て突進してくる皇帝軍の兵は、どう見てもギーブルの見積もりの2倍以上の数だった。




