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神獣の谷

「見事な峡谷であるな」

「はっ。誠に……」


司令部を出発して数刻。ギーブル伯爵とファルテン子爵はとある崖の上に馬を進め、眼下に広がる谷間を眺めていた。


「この辺りに住む者は“神獣の谷”と呼ぶそうにございます。何でも伝承によれば、太古より生きる神獣がここカルデンヴァルトで暴れ回った際、この峡谷をうがち抜いたとか。無論、根も葉もないただのおとぎ話でございましょうが……」

「ファルテンよ。それはただのおとぎ話ではないぞ」

「と、おっしゃいますと……?」

「この谷をうがち抜いたかどうかは分からぬが、太古の神獣自体は存在する。今もな」

「まさか……誠にございますか?」

「誠の話だ。そなたにもまだ打ち明けていなかったが、マリーセン軍を撃滅した折にでも、詳しく聞かせよう」

「それは楽しみでございますな……して、そのマリーセン軍はやはりこの谷で?」


ファルテンに尋ねられ、ギーブルは下に広がる峡谷をもう一度眺め回した。そして(うなず)く。


「うむ。位置といい、地形といい、こここそマリーセン軍を迎え撃つのにふさわしい地だ。マリーセン軍がこの谷に入る頃を見計らい、背後の砦から兵を出して退路を断つ。さらに他の砦からも兵を出して前後左右から攻撃すれば、容易に殲滅(せんめつ)できよう」

「ははっ。司令官閣下、相変わらずお見事な軍略にございます」

「欲を申せば、あらかじめ谷の周囲に兵を伏せておきたいところだが……」

「司令官閣下、残念ながらそれは……」


ファルテンが首を横に振る。西部方面軍がカルデンヴァルトの制空権を失っている今、近衛竜騎士団は自在に空からの偵察ができる。前もって万単位の兵を砦から出し、峡谷の周囲に配置していたら、マリーセン軍の知るところとなって逃げられてしまうだろう。そればかりはどうしようもなかった。


ギーブルは、少し渋い顔で言う。


「分かっておるわ。時を合わせてそれぞれの砦を出撃し、この谷に集結するは難儀だが致し方あるまい。誰か!」

「「「はっ!」」」


進み出てきた兵士達に、ギーブルは命じる。


「出撃の準備をするよう、各砦に伝えよ。狼煙(のろし)の合図とともにこの谷に集まり、マリーセン軍を殲滅するのだ。ただし、出撃せんとしていることをマリーセン側に知られてはならぬ。近衛竜騎士団の偵察にはくれぐれも気を付けるよう申し渡せ!」

「「「御意!」」」


命じられた兵士達は馬に乗って散っていく。それを見届け、ギーブルは残った兵を率いて司令部に帰還したのだった。

遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

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