撃滅を期して
参謀ファルテン子爵は、恭しく一礼して述べた。
「司令官閣下のお考え、誠に卓見でございます。只今のお話を伺い、アシマ・ユーベックがいかに我らを欺こうとしていたかがはっきりいたしました」
「ほう!」
「やはりあの者は、我らにマリーセン軍を過大評価させたかったのですな。そのために、裏切りを見越してテーゼラー卿の随行員共を送って寄越しました。随行員共が見聞きしたありのままを我らに話し、我らがマリーセン軍を大軍と錯覚すれば、打って出て迎え撃つことはせず、砦に籠って守勢に回ることになりまする。さすれば、マリーセン軍はさしたる妨害を受けることもなくシャドガン砦にたどりつけるという寸法でございましょう」
ファルテンの説明を聞き、司令官ギーブル伯爵は頷いた。
「ふん、なるほどのう。軍人ですらない、たかがテイマーの分際でよう考えたものよ。敵でさえなかったら、褒美に儂の靴でも磨かせてやるところだが……」
「されど此度は、司令官閣下の読みが勝りました」
「その通りよ! いかに小細工に長けようと、所詮は経験の浅い若造。長年戦に明け暮れた我らが、最後には勝つのだ!」
「全くもって、お言葉の通りでございます」
「して、我らはいかにすれば良いであろう? あの獣使いの裏をかき、これまでの雪辱を果たすには……」
「そうですな……」
しばらく考えてから、ファルテンは言った。
「いっそのこと、敵の手に乗ってやってはいかがで?」
「どういうことだ?」
「我らは大軍を警戒すると見せかけ、砦から動かずにおりましょう。あえてマリーセン軍を阻まぬことでシャドガン砦の近くまで引き入れるのでございます。そうしておいて、突如、各砦より兵を出しマリーセン軍を包囲すれば、一兵も逃れることはできますまい」
ファルテンの策を聞いたギーブルは、満足そうに答える。
「よし。それで行こう。策を破られた獣使いの、悔しがる顔が楽しみだ……誰か!」
「はっ!」
近習兵がやってきて跪くと、ギーブルは「馬を引け!」と命じた。
「司令官閣下、どちらへ参られるのですか?」
「ファルテン、シャドガン砦から街道沿いを視察いたすゆえ護衛の兵を集めよ。マリーセン軍を撃滅するにふさわしい地を見定めるのだ」
「ははっ。では、お供いたしまする」
しばらく後、ギーブルは騎乗して司令部を出発した。その後ろにはファルテンが付き従う。さらに近衛竜騎士団の出現に備えて、多数の弓兵、そして攻撃魔法士が前後を警護していた。




