群れの中の一匹
「何と……」
「帝都に進軍とは……」
「しかし……」
「そこで皆に問う!」
ギーブル伯爵は、ざわつく指揮官達を見回して言った。
「儂と共に立ち上がり、宮中にはびこる和平派の逆賊共を除いて皇帝陛下をお諫めするか、それとも和平派に降り、謂れのない罪を甘んじて受けるか……」
もちろんギーブルは、宮中を制圧した後で自分が皇帝になるつもりである。だが、それを最初から言うとさすがに反発が予想されるので、諌言のための挙兵だと体裁を繕った。
「儂と違い、皆は今すぐ帝都に上って和平派に降り、平身低頭許しを乞えば万に一つ、命が助かる見込みもあろう。ゆえに、挙兵への参加を無理強いはできぬ。屈辱に耐えて生き延びるもまた良し……」
「「「…………」」」
しばらくの間、指揮官達は声を出せずにいた。そしてついに、一人が前に進み出る。
「私は、司令官閣下に従います!」
「おお!」
ギーブルが顔を綻ばせると、さらに続く者が出た。
「私も!」
「司令官閣下と共に戦います!」
「和平派になど降りません!」
こうなると、ギーブルに賛同する流れは止めようがなかった。程なくして、部屋に集まった指揮官の全員が反乱に参加する意思を示す。何度も大きく頷いたギーブルは、指揮官達に言った。
「皆、良く決断してくれた。儂は嬉しく思うぞ。皆が立ち上がってくれたからには、もはや帝都の軍勢など恐れるに足りぬ。和平派の奴らに目にもの見せてくれようぞ!」
「「「御意!」」」
「されば各々持ち場の砦に戻り、守りを固めるのだ。帝都の軍勢が来たらば砦同士で連携してこれを迎え撃つ。さすれば我らの勝利に疑いはない!」
「「「はっ!」」」
やがて指揮官達は退室していき、部屋にはギーブルとファルテン子爵だけが残される。
「……閣下、うまく行きましたな」
「うむ……功を立てる前に休戦となり、あやつらの多くは職を失いかけておった。ようやく戦が再開されると思った矢先に死罪の恐れありと聞けば、平静ではいられまいて」
さらにファルテンの献策により、指揮官達の中に仕込みの者が配されていた。ギーブルが指揮官達の意志を問うたとき、真っ先に名乗り出た男はそうするよう、前もって言い含められていたのだ。
それでもなお、全員が反乱に賛同するかは未知数だったが、ギーブルとファルテンは賭けに勝った。西部方面軍が、現状望みうる最も理想的な体制でマリーセン軍、および帝都からやってくる皇帝軍を迎え撃てる見通しが立ったのである。




