因果は逆転する
「皇帝陛下が我々を裏切ったとは、どういうことでございますか!?」
「御説明を! 司令官閣下!」
「一体何があったのか、お聞かせください!」
司令官であるギーブル伯爵に詰め寄る指揮官達。ギーブルは両手を挙げて彼らを宥めた。
「皆、落ち着け! 落ち着いて話を聞くのだ!」
「「「…………」」」
指揮官達の怒号がひとまず収まったので、改めてギーブルは話し始める。
「皆も知っての通り、先般、宰相ガルハミラ候が皇帝陛下を説得され、陛下は戦争再開の命を我々西部方面軍に下された。されど何としたことか、宮中に巣食う和平派がマリーセンの者を引き入れ、ガルハミラ候を打倒したのだ。和平派の奴らは陛下に迫り戦争再開の命を撤回させたばかりか、陛下の命に従って戦の準備を進めた我々を罪に問おうとしておる!」
実際には皇帝から戦争再開の命令など出ていないし、罪に問われようとしているのはガルハミラと結託していたギーブルだけである。だが、指揮官達からギーブルの言葉を疑う声は出なかった。
「な、何と……」
「そんな馬鹿な……」
「勅使として参ったシャルンガスタ皇女に、儂は懇願した。この儂の身はどうなっても良い。されど命令に従っただけの部下達は助けてやってほしいとな……ところが、あの女は冷酷にも儂の願いを撥ね付け、西部方面軍の幹部全員を厳罰に処すと申しおった。さらに皇帝陛下はあろうことか、マリーセンの者に近衛竜騎士団を預け我々を攻撃させたのだ。皆が不審に思う、近衛竜騎士団の敵への寝返りの真相がこれだ……」
「「「…………」」」
指揮官一同は、言葉も出なくなっていた。本当のところはギーブルが皇帝の命令に従わず、独断でカルデンヴァルトに侵入した上、シャルンガスタ皇女を殺害しようとしたから近衛竜騎士団に攻撃されているのだが。
「事ここに至り、儂は腹を括るしかなくなった。言わずもがな、儂も皇帝陛下にお手向かいすることなどしたくはない。されど、この儂のみならず、皆のような忠義者まで罰するとあっては諌言の兵を挙げざるを得ぬ。皆に知らせるのが遅くなって相済まぬが、儂はここカルデンヴァルトの要塞を利用して帝都から参る軍勢を迎え撃ち、その後に帝都へ進軍して君側の奸を除きたいと考えておる!」
皇帝に背いたから罪に問われて攻撃された、ではなく、無実の罪に問われて攻撃されたから皇帝に背く。ギーブルはものの見事に原因と結果を逆転させ、部下である指揮官達を欺いていた。




