偽りの指示
「いいかな? 今現在西部方面軍は、ここを除いたカルデンヴァルトの各要塞にいる。籠城して皇帝陛下の軍勢や、マリーセン王国の軍勢を迎え撃つ構えだ」
「「「ははっ……」」」
「先に到着するのは、マリーセン王国の軍勢だ。マリーセン王国では摂政が全土に号令をかけ、西部方面軍に匹敵する兵力が集まった」
僕はあえて、事実と違うことをテーゼラー卿の随行員達に告げた。真相を知っているシャルンガスタ皇女殿下や竜騎士団員達は、何食わぬ表情で黙っている。
「マリーセン軍が野戦で西部方面軍を殲滅すれば、この反乱は早く方が付く。そこでお前達に、西部方面軍を砦から誘き出してほしい」
「どのようにすれば良いのでしょうか……?」
「カルデンヴァルトの道を下見したと言ったね? ここを出て、どこでもいいから西部方面軍のいる砦に行くんだ。そこでこう言う。『見張りが緩くなったから脱走してきた。牢にいる間に、マリーセン軍は小勢で後詰に来るという話を立ち聞きした』とね」
「ははーっ!」
「かしこまりました!」
「お任せください!」
随行員達が平伏する。僕は頷き、さらに言った。
「よし。時が来たら解放するから、それまで牢で我慢してくれ。テーゼラー卿とお前達がしたことについて、供述書を書いておくように。それと今回の手柄で、皇帝陛下に助命嘆願をするから」
「「「お頼み申します!」」」
僕は団員に、ローグ・ガルソンを呼びに行かせた。ローグ・ガルソンは兵を率いて入ってくると、随行員達をまた牢に連れていく。部屋には僕と皇女殿下、それに竜騎士団員だけが残った。
「アシマ様、あの者達は本当にアシマ様の御命令に従うでしょうか? あまり信用できないように思うのですが……」
不安そうな皇女殿下。随行員達は言い逃れをしていたが、結局は殿下を殺す企みに加担したのだから、それも当然だろう。
「御賢察の通りです。十中八九、裏切るかと。三人のうち少なくとも一人は、今見聞きしたことをそのまま西部方面軍に話すでしょう」
「「「!」」」
僕が答えると、皇女殿下は息を飲み、団員達もざわめいた。さらに続ける。
「たとえわたくしが彼らの助命を上奏しても、皇帝陛下が許さぬと仰せになればそれまで。それに対し、西部方面軍は彼らの命を奪わないはず。あの者達が確実に助かる方法は、西部方面軍に降り、勝たせる以外にないのです」
「何と、アシマ様はそこまで読んでおられるのですね……」
皇女殿下は、深くため息を吐いた。




