逃亡のち送迎
ヅェールド広場の群衆の間には、動揺が広がっていた。人々は互いに顔を見合わせ、囁き合う。
「クナーセン将軍をアシマが救い出したぞ……」
「もしかして、将軍は無実だったのでは……?」
「だとしたら、摂政殿下は何故処刑しようとなさったのだ……?」
一方、摂政の側に立っていた役人は、慌てて兵士達に向けて叫んだ。
「お、追え! 追うのだ! あの不埒者共を捕えよ!」
だが、そんな役人を摂政は制した。
「待て! 追わずとも良い!」
「し、しかしながら殿下。このままでは……」
「クナーセンも運の無い男よ。あのままここで首を打たれていれば、楽に死ねたものを……」
「恐れながら殿下、それは、いかなる意味で……?」
「奴らの行く場所は分かっておる。死に場所がこのヅェールド広場から、そこに変わるだけのことだ」
「は、はあ……」
摂政は、未だ柵の外側に留まる人々を見渡すと、突然大音声を発した。
「皆、静まれ!」
その声に、人々は沈黙する。摂政は語り掛けた。
「誠に遺憾ながら、二人目の謀反人が出てしまった。元王宮テイマー、アシマ・ユーベックは先般、国の予算を横領したため王都を追放となったが、おそらくはそれを逆恨みして、クナーセンの王位簒奪に加担したと思われる!」
群衆が再びざわめく。それが落ち着くのをしばらく待ってから、摂政は続けた。
「だが案ずることは無い! この場では取り逃がしたが、儂は既に、王宮の優秀な特級魔導士を討伐に差し向けた! 遅くとも夕刻までには、反逆者二人の首が晒されることとなろう! 皆、安心して各々の生業に励むが良い!」
「「「…………」」」
広場に、微妙な空気が流れた。クナーセンの謀反はもとより、アシマの横領も、人々にとって完全に初耳であったのである。だが、摂政の言い分に表立って異を唱える者はおらず、彼らは三々五々、広場を後にした。
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「アシマよ。済まぬが儂の屋敷に向かってはくれぬか? マルグレーチェのことが気掛かりじゃ」
ヅェールド広場が少し遠ざかったとき、クナーセン将軍が僕に言った。
夫人と息子夫婦に先立だれたクナーセン将軍だが、家族が一人だけいる。息子夫婦の娘であるマルグレーチェだ。王都を脱出するなら、そのマルグレーチェも連れて行きたいのだろう。
「そう仰ると思っていました! 今向かっております!」
「おお、そうであったか!」
将軍が感嘆したように言う。バルマリクは将軍の屋敷を目指し、さらに速度を上げた。




