テイマー、古巣に飛び込む
国王陛下への拝謁を終えた僕は、デーグルッヘと共に飛び立った。上空で、以前やったようにランプを持たせたワシを放つ。ワシはカルデンヴァルトの方へと飛んでいった。これで地上のマリーセン軍からは、僕達がカルデンヴァルトへ帰ったように見えるだろう。
そして実際には、反転して王都ヴェルニケウスへと向かう。暗闇の中を飛びながら、デーグルッヘは怪訝そうに尋ねてきた。
「団長、何故マリーセン軍の目を欺くのですか? マリーセン軍は味方のはずでは」
「王都にいる摂政は、カルデンヴァルトを西部方面軍に売り渡すつもりだ。国王陛下が僕達を支援したと知ったら、摂政は国王陛下に危害を加えるかも知れない」
「何と、そのようなことが……」
「あそこには摂政の腹心もいたからね。念のため、そのまま帰ったように見せかけたんだよ」
王都の上空に進入した僕達は、王宮獣舎の真上まで行って停止した。いくら真夜中の暗がりと言っても、ドラゴンで王宮に降り立てば誰かに気付かれる恐れがある。そこで僕は、上空から獣舎めがけて飛び降りた。
「それっ!」
僕の胴体にはロープが結んであり、その端はデーグルッヘのドラゴンにつながっていた。デーグルッヘに厚手の布越しにロープを握ってもらうことで、ロープの出る速さを調節し、緩やかに落下していく。
無事、獣舎の屋根に降りた僕は、ロープを外し、獣舎の中に入って泊まり込んでいる職員達を起こした。
「しゃ、舎長! どうしてここに!?」
「もしかして、追放が解かれたのですか!?」
職員達が驚いたことは言うまでもない。僕は彼らを制して言った。
「みんな静かに。残念だけど、まだ追放が解かれたわけじゃないんだ。その代わり、国王陛下の密命を賜って来た。これを見て」
僕は職員達に、国王陛下直筆の書状を見せた。そこには、『王宮獣舎のドラゴンをカルデンヴァルトに派遣し、リーラニア帝国西部方面軍を討たせよ』と書かれている。追放されたテイマーの指示だけで職員達が動くのはさすがに筋が通らないので、国王陛下に急いで書いてもらったのだ。
「国王陛下の御命令のことは、摂政には内緒だよ。誰かに聞かれたら、『ドラゴン達は本来の飼い主であるテイマーがいないことに気付いたらしく、暴れて獣舎を出ていきました』って言うんだ」
「分かりました、舎長……みんな急げ! 早くドラゴンを起こすんだ!」
職員達は慌ただしく獣舎の中に散っていき、眠っていたドラゴン達を目覚めさせていった。




