摂政、テイマーに宝剣も持ち逃げされる
クナーセン将軍処刑の話を騎士から聞いた後、僕は近所の人に縄を譲ってもらった。バルマリクにその縄を巻いて命令を与え、空に解き放つ。
命令は二つだ。一つは、一度王都を離れてから、高いところを飛んでヅェールド広場の上に進入し、待機すること。
もう一つは、僕が剣に日光を反射させるのを見たら、処刑台の上まで降下して来ること。
その後、ポルメーを服の中に隠して王宮へ向かった。昨日まで王宮勤めをしていたので、忍び込むのは何とかなる。馬用の厩舎(僕が働いていた獣舎とは別)に辿り着くと、中に入り、係員の隙を突いて処刑人の馬をテイムした。
処刑人の馬に与えた命令は、王宮の門を出たらヅェールド広場とは反対の方向に走り出せ、というもの。これで、処刑人は正午までにヅェールド広場に来られない。
摂政は、将軍の処刑を相当に急いでいた。いつ来るか分からない処刑人を悠長に待つことはせず、代役を募るだろうと僕は踏んだ。将軍を斬ろうとする兵士が、そうすぐには現れないことも予想していた。
後は王宮を出て長いローブを買い、変装するだけだ。ポルメーの体の一部を顔に貼り付け、自分の血を薄く塗って火傷の水ぶくれを装う。普段首の後ろで縛っていた黒髪は、解いてから泥で汚して色を変えた。
準備を整え、柵の外で待っていると、果たして摂政は代役を募った。僕は首尾良く将軍をさらい、屋根の上に降り立つ。将軍を縛っていた縄を切り、猿轡を外すと、摂政が問い掛けて来た。
「何者だ!?」
僕は顔に貼り付けたポルメーの一部を本体に戻し、素性を露わにした。それでようやく摂政は気付いたらしく、怒声を浴びせて来る。
「ユーベック! 貴様、自分が何をしているか分かっておるのか!?」
「国王陛下! 摂政殿下! アシマ・ユーベックが王都出立前のお暇乞いをいたします! クナーセン将軍は陛下の忠臣にして国の護りの要! 死なせる訳には参りません! 共にお連れ申し上げます!」
満面の笑みで答える僕。摂政の顔はさらなる怒気を帯びた。
だが、隣に座る陛下の表情には、わずかな明るさが一瞬見えていた。
それを見届けた僕は、剣を鞘に納め、バルマリクの背中に跨る。
「将軍、どうぞ!」
「うむ。恩に着るぞアシマ。おかげで命拾いしたわい」
将軍が後ろに座り、僕の体に掴まる。
僕はバルマリクを飛翔させた。
「皆さん、さようならーっ!」
呆気に取られている人々に向けて、手を振り別れを告げる。僕達は高度を上げ、その場を後にした。




