テイマーの献策
「先程、オルバック伯が申していた通りだ。今、余の下におる軍勢は一万にも満たぬ……」
「…………」
国王陛下の言葉に、僕は少し俯いた。西部方面軍の正確な兵力は分からないが、少なく見積もっても五万は下らないだろう。バワーツ砦に籠っているカルデンヴァルト軍と合わせても、マリーセン軍は少な過ぎて、正面からでは西部方面軍に太刀打ちできない。
もちろん、単独では戦わず、カルデンヴァルトの手前でリーラニア帝都の軍を待ち、合流するという手はある。そうすれば、数の上では西部方面軍を上回る。
ただ、その場合バワーツ砦の救援は遅れる。西部方面軍も、死に物狂いでバワーツ砦を落とそうとするだろう。リーラニア帝都の軍が間に合わなければ、クナーセン将軍や辺境伯達が討ち取られてしまう。
「…………」
「済まぬ。全ては余の至らなさだ。余には、カルデンヴァルトを護ることができぬ……」
「陛下!」
国王陛下の目に、涙が浮かんでいた。僕は慌てて立ち上がり、無礼を承知で陛下の手を取る。
「アシマ……」
「お諦めになるのは、早うございます! 何とかする策が、ないわけではございません!」
「い、いかにすれば良いのだ……?」
まっすぐ僕の目を見てくる国王陛下。僕は陛下から離れ、改めて跪いてから言った。
「陛下のお力で、カルデンヴァルトの制空権を取るのです。さすれば、リーラニア帝都の軍勢が到着するまで時を稼げます。カルデンヴァルト軍が健在なまま、陛下の軍勢、そしてリーラニア帝都の軍勢が合わされば、勝機は十分にございましょう」
「カルデンヴァルトの制空権を取ると申しても、余にそのような力は……」
「お忘れでございますか? 陛下はわたくしにバルマリクとポルメーを賜られました。それによってリーラニア帝都の主戦派を一掃し、帝都の軍勢を味方とすることができたのでございます。此度も陛下の御決断があれば、西部方面軍の竜騎士隊を討てます!」
「ああ……」
国王陛下は立ち上がり、僕の前に両膝を突いた。
「お止めください、陛下!」
「教えてくれアシマ! 余は何をすれば良いのだ? 何でもする!」
「っ……」
僕は国王陛下の近くに口を寄せ、あることを耳打ちした。聞き終えた陛下は、怪訝な顔をする。
「……? それだけで良いのか?」
「はい。それさえ賜れば、カルデンヴァルトの空を制して御覧に入れます!」
「わ、分かった……誰か! 誰かおらぬか!」
陛下は侍従を呼ぶと、急いで僕が頼んだものの用意を始めた。




