国王陛下の信頼、摂政の不在
「アシマ……」
「陛下」
「カルデンヴァルト辺境伯、並びにシャルンガスタ皇女の書状と申したな?」
「御意にございます」
「余は、その書状を読んでみたい。見せてはくれぬか?」
「ははっ。これに……」
「……っ」
オルバック伯爵はまだ何か言いたそうだったが、僕は無視して二通の書状を取り出し、頭の上に捧げ持った。国王陛下の従者が近づいて書状を受け取り、陛下に手渡す。
書状に目を通した国王陛下は、それらを左右の者達に回した。主だった者が読み終えたのを見て、陛下は口を開く。
「皆に問う。この二通の書状を、偽書と思うか?」
「恐れながら、カルデンヴァルト辺境伯の真筆に間違いないかと。シャルンガスタ皇女殿下のサインにも、見覚えがございます」
一人が答えると、国王陛下は頷いた。
「これで皆、分かったであろう。アシマの申すことに偽りはない」
「陛下の御賢察に、感謝いたします。つきましては、援軍到来の日時をお教えいただきたく。ときに、摂政殿下のお姿が見えませぬが、後から別の軍を率いてお越しになられるのでしょうか?」
「「「…………」」」
僕の質問に、その場の雰囲気が急に重苦しくなった。どうしたのだろう。
やがて答えたのは、オルバック伯爵だった。
「摂政殿下なら、お見えにはならぬ。王都にて留守居役を務めておられる」
「何と! 国王陛下に代わって政を預かる身でありながら、陛下の御親征に参陣されぬのですか!?」
思わず大声が出た。それに驚いたのか、オルバック伯爵はややのけぞりながら言う。
「で、殿下は体調を崩されているのだ。そ、それに……国王陛下ももうじき十五におなりあそばされる。軍を率いても良いお年頃であろう」
「これは間の悪いこともあるもの。今まで御病気一つなされず、つい数日前もすこぶる御健勝であられた摂政殿下が、かかる大事の折に限って、行軍もできぬほどの御不調とは……」
「き、貴様! まさか殿下が仮病だとでも……」
「とんでもございません。摂政殿下の御不運を、お嘆き申し上げたまでにございます」
わざとらしく頭を下げる。オルバック伯爵も、それ以上は何も言わなかった。
もしかして……僕は摂政の意図を勘繰る。摂政は、国王陛下を戦で負けさせる気なのではないだろうか。
国王陛下はまだ若く、一人で大軍をまとめられるほどの求心力はない。クナーセン将軍や摂政の補佐がない状態で軍を率いても、まともに戦えないだろう。少なくとも、国の諸侯はそのように見るはずだ。




