前の日の夜に
~主人公Side~
「近衛竜騎士団、全騎反転!」
西部方面軍竜騎士隊の大半が撃ち落とされたのを確認した僕は、団員達に反撃を命じた。今まで劣勢を耐え忍び、逃げに逃げていた団員達はぐるりと竜首を巡らし、ここぞとばかりに敵に襲いかかっていく。
こちらの数は、応援に駆け付けたマリーセン王宮獣舎のドラゴンを合わせて七十近い。それに比べて、生き残っている敵は十騎少々。最初あった数の差は完全に逆転していた。こうなってはもう勝負にならない。たちまち敵の数騎が矢を浴びて墜落する。
「お、おのれ、アシマ・ユーベック……撤退だ!」
敵の隊長らしい竜騎士が毒づくが、さすがに敵わないと見たのだろう。部下をまとめて向きを変え、元来た方へ向かって逃げ出した。
「逃がすな!」
「「「御意!」」」
今度はこちらが追撃する番だ。近衛竜騎士団とマリーセン王宮獣舎のドラゴン達は、合流して敵竜騎士隊の残党を追い始めたのだった。
☆
時間は少し遡り、昨日の夜。
デーグルッヘと共にバワーツ砦を出発した僕は、途中山に降り立って連絡用のワシを新たにテイムした。その後はカルデンヴァルトから王都に伸びる街道に沿って、まっしぐらに飛行する。王都から後詰の軍勢が来るなら、街道に沿ってやってくるので、あちこち探し回る必要はない。
それらしい軍勢はなかなか見つからなかった。もう少しでジャールントの町まで戻ってしまうというとき、ようやく多数のかがり火を地上に発見する。近づいてみると、やはり大勢の兵士が野営していた。
「りゅ、竜騎士!」
「リーラニア軍か!?」
見張りらしい兵士達の前に降り立つと、相手は少し驚いた様子だった。僕はリーラニアの軍使だと名乗り、軍勢の指揮官との面会を申し出る。中に引っ込んだ見張りの兵士達は、しばらくすると戻ってきて僕達を案内した。
「ど、どうぞ……」
「ありがとう」
地面に降り、歩き出す僕とデーグルッヘ。二頭のドラゴンは、後からのっしのっしとついてくる。歩きながら野営地を見回していた僕は、あるものを見つけて息を飲んだ。
国王旗だ。
思わず足を止めた。国王旗があるなら、この軍勢は国王陛下が自ら率いている。考えてみれば、クナーセン将軍が不在の今、国の軍を束ねられる人はそういない。国王陛下が親征してカルデンヴァルト救援に向かっても、おかしくなかった。
「…………」
「団長、どうなさいました?」
「ごめん。大丈夫」
デーグルッヘに答えて、僕は再び歩き出した。




