竜降るカルデンヴァルト
「一騎も逃すな!」
西へ逃げる近衛竜騎士団の片割れを追いつつ、部下達を鼓舞するボルダヴィク。いつしか別動隊と、彼らが追うもう一方の近衛竜騎士団は右手の山々に隠れ、見えなくなっていたが、構わず目前の敵に集中する。
五十騎近いボルダヴィク達に対し、今いる近衛竜騎士団は二十騎程度。双方矢を射るが、向こうは振り返っての射撃ということもあり、命中数は段違いだった。ドラゴンの丈夫な羽も、少しずつ破れていく。
もう一息だ。そのとき、部下の一人が叫んだ。
「右手上空に、竜の集団!」
見ると、確かに四、五十頭のドラゴンが山の上を飛んでいた。ボルダヴィク達からやや遅れて同じ方向に移動しており、合流しようとしているのか、段々近づいてくる。
「別動隊か……どうやら向こうは、早々に片付いたようだな」
憎き近衛竜騎士団の半数を殲滅したと思うと、ボルダヴィクの顔は自然とほころんだ。
一方、近衛竜騎士団も、新たに現れたドラゴンの群れに気付いた様子だった。逃げる速度をさらに上げるのと同時に、大きなドラゴンが最後尾に下がってくる。アシマだ。部下の代わりに、自分が攻撃を受けるつもりらしい。
「フハハハハ! 自ら犠牲になって味方を逃がそうとは健気な奴! だが、無駄な努力というものだ!」
別動隊と合流すれば、数は敵の四倍以上となる。ボルダヴィクは勝利を確信した。
「まずはアシマ・ユーベック、望み通り貴様から仕留めてやる! 皆、あやつめがけて一斉に射掛けよ! 針鼠にするのだ!」
「「「オオ!!」」」
そのとき、アシマが妙な動作をした。こちらを向いて両手を上に挙げたかと思うと、さっと振り下ろしたのである。
どういう意図だ? ボルダヴィクの胸を疑念がよぎったとき、背後で衝突音と悲鳴がいくつも巻き起こった。
「!?」
振り向くと部下の竜騎士達が、降下してきたドラゴン達に次々と体当たりされていた。竜騎士を乗せたドラゴンは制御を失って落下していく。ほんの数秒で、ボルダヴィクは部下の大半を失った。
「なっ……」
別動隊に見えたドラゴンの群れは、敵だったのだ。辛くも難を逃れた竜騎士の一人が叫ぶ。
「ま、まさか、帝都からの増援か!?」
「いや……」
ボルダヴィクは、かすかに首を横に振る。襲ってきたドラゴンは無人だった。さらに、リーラニアの竜騎士が騎乗に用いる四つ足のドラゴンの他、前足のないワイバーン種や、足がなく翼だけのアンピプテラ種がいる。これは……
「マリーセンの竜だ!!」




