西部方面軍、竜騎士隊出撃
ファルテン子爵は、不安げな表情を崩さなかった。
「数の不足がないのは分かりました。ボルダヴィク殿を始め、竜騎士達の気持ちも理解できます。されど……」
「双方全力で正面からぶつかり合うのならば、我が方に負ける要素はありませぬ。御心配には及ばぬかと」
「アシマ・ユーベックの騎竜は大きさも速さも、我が方の竜とは比べ物にならなかったと報告が……」
「確かに、竜の種類は違いましょう。しかしながら、同じ種類の竜にも個体差がございます。我が騎竜は西部方面軍で最も竜格が大きく、力も優れてございます。一騎討ちにても、アシマ・ユーベックを十分に倒せまする」
「さようでございますか……」
意気盛んに自隊の優位を説くボルダヴィクに、とうとうファルテン子爵は引き下がった。それを見て、ギーブル伯爵は尋ねる。
「ボルダヴィクよ。誠に勝てるか? 此度ばかりは、失態は許されぬぞ」
「万に一つ敗れた折には、軍法会議にて裁きを受けまする」
ギーブル伯爵は頷いた。
「ようし……一気呵成に近衛竜騎士団の奴らを殲滅できるのであれば、何よりの成果となる。余勢を駆って大軍で攻め寄せれば、バワーツ砦も一息に落せようぞ」
「はっ。されば司令官閣下は、総攻撃の御準備を」
「よし。ファルテン、準備を進めよ!」
「ははーっ。かしこまりましてございます」
こうして方針は決まり、西部方面軍は翌日の大攻勢に向けて準備を始めた。
☆
翌日の早朝、仮の司令部の前に集結した竜騎士隊を前に、ボルダヴィクは訓示を行う。
「皆の者、よく聞け! 我らはアシマ・ユーベックの卑劣な策略の前に、たびたび煮え湯を飲まされた。だがそれも今日までのことだ。我らが総力を挙げて攻撃をかければ、あの下賤な獣使いとて小細工を弄することはできぬ! 近衛竜騎士団は数も少なく、騎士一人一人の質も我らより低い。真正面からぶつかれば、我らの一方的勝利は間違いないのだ!」
「「「ウオオオオ!!!」」」
竜騎士達は歓声と共に諸手を上げ、ボルダヴィクの言葉に賛同した。誰一人として、自分達の圧勝を疑っていない。
「今こそ近衛竜騎士団を皆殺しにするぞ! 出撃!」
ボルダヴィクの号令で、九十騎近い竜騎士隊は次々と上昇していく。後には留守を守る少数の兵だけが残された。ギーブル伯爵やファルテン子爵は、バワーツ砦への攻撃を指揮するため、既に兵を率いてその場を後にしている。伯爵は、自ら砦に乗り込んでシャルンガスタ皇女を捕えるつもりであった。




