竜騎士隊長の主張
「またしても我が方の竜騎士隊がやられたと申すか! 誤報ではないのか!?」
「地上部隊が目撃しておりました。疑う余地はございませぬ」
「ううむ……」
前の夜に取り逃がした近衛竜騎士団の行方を、西部方面軍は掴めていなかった。従って、竜騎士隊を分散してカルデンヴァルトの各拠点を攻撃させれば、一部が近衛竜騎士団に遭遇することは予想されていた。その対策として、万一遭遇した場合に相手が優勢であれば速やかに撤退するよう指示していたのだが、結局逃げ切れずに殲滅されてしまったのである。
従者に注がせた酒をあおり、ギーブル伯爵は苦り切る。
「ぬうう……竜騎士隊を分散させたは失敗であったか」
「それは致し方ありますまい。一刻も早いカルデンヴァルト制圧のため、各所への竜騎士隊の派遣は必要なことでございました。ただ、アシマ・ユーベックがこちらの想定を上回っていたのでございます」
「それはそうかも知れぬが……」
「いかがでございましょう。明日以降のバワーツ砦攻撃は地上部隊に任せ、竜騎士隊は温存しては? 後詰に来るマリーセン軍や、皇帝の派遣した軍勢との戦いも控えておりますれば、これ以上竜騎士隊を消耗させられませぬ」
ファルテン子爵の提案に、ギーブル伯爵は考え込んだ。
「……ユーベックとまともにぶつかるのは、避けよと申すのだな?」
「はっ。地上部隊の損害は多少増えましょうが、ここは一つ……」
「お待ちくださいませ!」
突然部屋の入口から聞こえた声に、二人は振り向く。
「これは……ボルダヴィク殿」
西部方面軍の竜騎士隊長ボルダヴィクは、部屋の中央に進み出て跪いた。
「度重なる失態、申し開きの言葉もございませぬ。が、竜騎士隊の温存は無用。何卒、全隊の出撃をお命じくださいませ。明朝、バワーツ砦を攻撃し、近衛竜騎士団をことごとく討ち果たして御覧に入れます」
「されど、これまでに二十騎を失っておるではありませぬか。以前ほどの数の優位は……」
「不幸中の幸い、主を失ってさまよう竜を何頭か、我が配下が捕えました。これに控えの竜騎士を乗せれば、九十騎近くまで戦力が回復いたします。昼間、視界良好な中で倍近く数が違えば、多勢の側の完全勝利は間違いありませぬ」
「「…………」」
「加えて、全ての竜騎士が仲間の仇討ちに燃えておりまする。地上部隊に功を譲り、我々は待機するなど考えられませぬ!」
ギーブル伯爵、そしてファルテン子爵を見上げ、ボルダヴィクは熱弁を振るった。




