帝国の軍使として
「朝までには戻って参ります。将軍、その間のこと、お頼み申します」
「お待ちください!」
声を上げたのは、上座のシャルンガスタ皇女殿下だった。
「アシマ様は、マリーセン王国から追放された身であるはず。マリーセン王国の軍勢と接触するのは危険では?」
「追放されたテイマーではなく、リーラニアの軍使として参ります。軍使には危害を加えないのが万国共通の慣例。よほどのことがない限り、いきなり捕えられるようなことはないかと」
「…………」
皇女殿下はまだ心配そうだったが、とりあえず黙った。
「しかし……やはり危険なのでは? 団長自らお出でにならずとも、竜騎士団員の中から選抜して派遣すれば十分かと存じますが……」
今度は、僕の隣のデーグルッヘが異を唱えた。だが、僕は首を横に振る。
「気持ちは嬉しいけど、この役目は僕にしかできないよ」
「何故です?」
「団員のみんなは、マリーセンの地形を知らない。軍勢の通ってくる町や街道を、夜中に空の上から見つけるのは無理だよ」
「…………」
デーグルッヘも沈黙する。だが、しばらくしてまた口を開いた。
「……お話は分かりました。されど、団長をお一人で行かせ、万一のことがあっては皇帝陛下に申し開きができませぬ。何と仰せになられようとも、このデーグルッヘ一人だけはお供させていただきます」
「…………」
今度は僕が黙る番だった。少し間を置いて尋ねる。
「……バルマリクに、ついて来られる?」
「団長の竜の速さは存じております。が、我が騎竜も帝都きっての駿竜。足手まといにはなりませぬ!」
「……よし。じゃあ一緒に行こう」
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「全く……アシマはいつも無茶するんだから」
出発の段になり、マルグレーチェも見送りにきた。呆れ顔の彼女に、僕は頭を下げる。
「また心配かけてごめん。行ってくるよ」
「これを持って行くが良い」
辺境伯から書状を渡され、僕は尋ねた。
「これは?」
「そなたが砦の防衛に力を尽くしておることを書いた。加えて、後詰来援の時期を伝えてほしいともな。カルデンヴァルト辺境伯直筆の書状、ないよりは良かろう」
「アシマ様、わたくしからもこれを。父上の和平への御意思を認めております」
「お二人に、感謝いたします!」
二通の書状をしまい、僕はバルマリクに跨る。既にデーグルッヘは、後ろに控えていた。
「行くよ!」
「御意!」
僕達二騎は砦を飛び立ち、王都ヴェルニケウスのある方へ飛行を開始したのだった。




