砦での軍議
「皆、大儀じゃった」
ここは砦の一室。敵を深追いすることなく砦に戻ってきたクナーセン将軍は、直ちに軍議を開き、主だった人達を集めていた。
「皆の働きのお陰で、緒戦は我が方の大勝利じゃ。とりわけ、ドラゴン部隊による空からの攻撃が失敗したのは、敵にとって予想外であったに違いない」
「そうですな。あれ以降、敵の勢いは目に見えて弱まりました」
ローグ・ガルソンが肯定すると、将軍は尋ねた。
「ときに、皇女殿下に御署名いただいた矢文は敵に届いたか?」
「はっ。全て敵陣に射ち込ませました。何通かは敵兵が開いて読むのが見えましたゆえ、内容は敵陣営に伝わったかと」
「うむ……今のところは順調じゃな」
将軍は頷いたが、やがて顔を上げて言った。
「されど、明日からはこう上手くは行かぬやも知れぬ。敵は今頃、このバワーツ砦以外の拠点を占領し終わっているはずじゃ。明朝には、全軍を挙げてこの砦の攻略にかかるであろう……」
「やはり、厳しくなるか……」
辺境伯が顔を曇らせると、将軍は答えた。
「無論、一日や二日で落ちはせぬ。水や兵糧は十分にあるし、マルグレーチェの働きで兵力の損耗も抑えられておる。敵方にも回復術師は何人かおるが、彼らにマルグレーチェほどの腕前はない故、戦力の維持においても、我が方が優位であるはずじゃ」
そのマルグレーチェは今も怪我人の治療に当たっていて、この場にはいない。竜騎士団員も何人かが矢傷を負っていたから、今頃は彼女の世話になっているだろう。
「……とはいえ、いつまでもは持ちこたえられぬ。敵が損害を顧みず力攻めを続けてくれば、いずれ守りが破られるのは必定じゃ。いつ来るか分からぬ後詰を待ち続けるうちに、兵士達の士気も下がっていくでな」
「ううむ……」
辺境伯が唸る。後詰の到着する時期、か……
「「「…………」」」
室内に少しの沈黙が流れた後、僕は将軍に尋ねてみた。
「将軍、後詰がいつ到着するか分かれば、多少はやりやすくなるのではありませんか?」
将軍は、少し考え込むような表情で言う。
「うむ……それは確かじゃ。後詰がいつ来るか分かれば、兵士達の士気が保ちやすくなる。じゃが、この状況では王都からの知らせも届くまい……」
「ですので、王都の集めた軍勢がいつ頃カルデンヴァルトに到着する見込みか、わたくしが行って様子を見て参ります」
「「「!」」」
一同が息を飲む。しばらくしてから、将軍は口を開いた。
「行ってくれるか。済まぬな……」




