敵竜騎士隊逃亡
城壁を降りて建物に入ると、待機していた竜騎士団員達が一斉にこちらを見た。副長のデーグルッヘが、緊張の面持ちで尋ねてくる。
「団長、我々の出番ですな?」
「ああ……いよいよ西部方面軍の竜騎士隊と対決だ。みんな、行けるね?」
「無論であります! 我ら近衛竜騎士団、実戦の経験には乏しくとも、帝都の盾となるべく過酷な訓練を積み重ねて参りました。相手が西部方面軍の竜騎士隊であっても、決して引けは取りませぬ!」
「よし……それじゃ出撃だ!」
「「「オオ!」」」
全員でドラゴンに跨り、建物を出る。僕は砦の中央を見上げた。そこには高い塔があり、クナーセン将軍はそこから全体の指揮を取っている。将軍がこちらを見下ろしていたので、僕は西部方面軍の竜騎士隊が飛んで来る方向を指差して見せた。
将軍が大きく頷く。それを見て僕は、バルマリクを飛び上がらせた。
「行くぞ!」
団員達が後に続く。西部方面軍の竜騎士隊が近づいて来ているのが見えた。やはり数は十数騎で、敵の竜騎士隊の全部ではない。他の砦も攻略するために、今日は戦力を分散しているようだ。僕達はこのバワーツ砦に全軍を集めているわけだが、他の砦がもぬけの殻なのを西部方面軍が知るのに、きっと今日一杯はかかる。
さて、僕達は彼らよりも上空の位置を占めるべく、どんどん上昇した。向こうもこちらに気付いて上昇を始めるが、その動きは鈍い。さらに距離が近くなると、その理由が分かった。西部方面軍の竜騎士隊は、ドラゴンに大きな樽を乗せている。それで重いのだ。
おそらくあの樽の中には、油か火薬が入っている。火種と共に砦に投げ込み、中の兵士を焼き殺すつもりなのだろう。僕は一度振り返り、団員達の様子を確認する。
そのとき、団員の一人が叫んだ。
「団長! 反乱軍の竜騎士隊が逃げます!」
「!?」
見ると確かに敵の竜騎士隊は樽を次々に投棄し、反転して去って行く。自分達より多数の相手に上空を取られ、勝ち目がないと早々に見切ったのか。
次に来るときは、必ず西部方面軍の全竜騎士で現れるだろう。できることなら、彼らはここで仕留めておきたい。僕は後ろを飛ぶ団員達に叫んだ。
「挟み撃ちにする! 僕が向こうの足止めをするから、みんなはこのまま追跡して!」
「「「御意!」」」
僕は竜騎士団から離脱し、バルマリク一騎でさらに上空へ舞い上がった。そして速度が最大になるまで加速して、敵の竜騎士隊を追う。彼らの背中はどんどん近づいてきた。




