これまでのこと
「姫様!」
「皇女殿下!」
建物の中に入ると、シャルンガスタ皇女殿下のお付きの人達が飛び出してきた。皇女殿下は顔を輝かせて彼らを迎える。
「ああ! 皆もここに来ていたのですね!」
「姫様。良くぞ御無事で……」
「生きてまたお目にかかれるとは……」
次々と皇女殿下の前に跪き、涙ぐむお付きの人達。殿下もまた床に両膝を突き、彼らを抱き締めたのだった。
その光景に思わずもらい泣きしていた僕だったが、ふと思い出して辺境伯に尋ねた。
「そう言えば閣下。テーゼラー卿は?」
「そなたの知らせを受け取ってすぐに、随行の者達と共に拘束した。今はこの砦の牢に閉じ込めてある。また悪事を働かれてはたまらぬからな」
僕は頷いた。
その後僕達は会議室に入り、皇女殿下を上座として席に着く。早速殿下は、これまでにあったことを話し始めた。
宰相が講和反対派の黒幕であり、僕がその陰謀を暴いたこと。
追い詰められた宰相がサーガトルスを皇帝陛下に差し向けたものの、サーガトルスは僕に倒され宰相自身も命を落としたこと。
西部方面軍が皇帝陛下の命に背いてカルデンヴァルトに侵攻し、それを止めるために僕が将軍に任じられてやってきたこと。
そして、西部方面軍が王女殿下の命を再び狙い、帝都に反抗する姿勢を見せていること。
「……という次第です。再三申し上げますが、此度のカルデンヴァルトへの侵攻は、父上の御命令でも本意でもございません。虫の良い話であるとは思いますが、それだけはどうか御理解いただきたいのです」
「「「…………」」」
王女殿下が話し終えても、しばらくは誰も口を開かなかった。あまりにいろいろなことがあり過ぎて、理解がなかなか追いつかないのかも知れない。
やがてクナーセン将軍が、ぽつりとつぶやく。
「やはり、皇帝陛下の与り知らぬことであったか。よもや西部方面軍の首脳が、反逆者の汚名を着てまでカルデンヴァルトの奪取にこだわるとはのう……」
「申し訳ございません。力及ばず、侵攻を止められませんでした」
僕が頭を下げると、辺境伯は手を振って言った。
「いやいや……帝都が西部方面軍の侵攻に与せず、それどころか討伐する動きにまで出ているとあらば、我等は百万の味方を得たに等しい。良くやってくれた……」
「そうじゃな。マリーセン軍に加え、帝都のリーラニア軍も後詰に来ると聞けば、兵達の士気も一層上がる。必ずや持ちこたえられようぞ!」
クナーセン将軍は、力強い口調で言ったのだった。




