外務大臣捕まる
辺境伯の言葉を聞いたテーゼラー卿は、一瞬表情を硬くする。それを見咎め、辺境伯は尋ねた。
「いかがなされた? 朗報ですぞ」
「い、いや別に……それは何よりですな……」
「ふむ……」
辺境伯はローグ・ガルソンに向かって頷く。それを受けたローグ・ガルソンが、顎をしゃくって配下の兵士に合図した。兵士達は一斉にテーゼラー卿に飛びかかる。
「な、何をするっ!?」
テーゼラー卿は暴れたが、為すすべなく兵士達に取り押さえられた。随行員達は突然のことに慌てふためくうちに、別の兵士達から剣を突き付けられて沈黙する。
「これは一体、何の真似だ!?」
床に跪かされた状態で抗議するテーゼラー卿。辺境伯は椅子から立ち上がると、テーゼラー卿に近づいて言った。
「アシマから知らせがあった……リーラニア軍のドラゴン部隊は、国境の南に集中していたとな」
「それが何だと言うのだ!? あの獣使いが南に向かった以上、それを察知した竜騎士隊も南に向かって当然であろう!」
「誠に、アシマが南に向かったと思っておるのか?」
「何だと……? どういう意味だ!?」
「分からぬか? アシマはお主に偽りの経路を教えたのだ。その上でリーラニア軍のドラゴン部隊が南に寄っておったとなれば、お主がリーラニアの講和反対派に通じ、漏らしたとしか考えられぬ」
「なっ……」
テーゼラー卿が驚きの表情を見せる。辺境伯は兵士に命じた。
「連れて行け!」
「ま、待て! 私はリーラニア帝国の外務大臣だぞ! かような扱いをして只で済むと……」
「たとえ外務大臣であろうとも、皇女殿下暗殺の企てに加担した疑いあらば、拘束もやむを得ぬ。釈明はリーラニア皇帝陛下にするが良い。もっとも、その機会があればの話だがな」
「何……?」
「リーラニア軍がこのカルデンヴァルトに攻めて来なんだら、生かしてリーラニア帝都まで送り届けてやろう。だが、もし攻め寄せてくるなら、お主の首を刎ね、兵の士気を高めるのに利用させてもらう。アシマが首尾よく皇帝陛下を説得できるよう、せいぜい祈ることだな」
「ひっ、ひいいっ!」
テーゼラー卿と随行員が連行されていくと、クナーセンが苦笑しながら言った。
「フェンラート。お主も人が悪いな。誠に首を刎ねる気はないのじゃろう?」
「まあな。あのような男でも、生かしておけば何かの役に立つかも知れぬ。だが、邪な陰謀でこの地を狙う不逞の輩、あれぐらい脅してやってもよかろう」
そう言って、辺境伯もまた笑って見せた。




