ワシ便り
~カルデンヴァルトSide~
時は少し戻り、アシマにシャルンガスタ、そしてマルグレーチェが朝早くにカルデンヴァルト辺境伯の館を出立した直後。
辺境伯は軍議を開き、リーラニア軍が侵攻してきた場合の対応について家臣達、そしてクナーセンに諮った。
「アシマが皇帝を説き伏せてくれれば良いが、リーラニアの講和反対派もさる者。そううまく行くとは限るまい。万一の事態に、いかに備えるべきか?」
「「「…………」」」
しばし沈黙が流れた後、クナーセンが口を開いた。
「休戦が成立した故、カルデンヴァルト防衛の兵はそれぞれの領国に引き上げておる。我らの今の兵力では、リーラニア西部方面軍の侵攻を完全に防ぎ切ることは不可能じゃろう……残念じゃが、カルデンヴァルトの全域は護り切れぬ」
「やはり、そうか……」
うつむく辺境伯に、クナーセンは頷いて続ける。
「うむ。攻め入られたときは、兵力を一つの砦に集めて籠城する他あるまい。その上で、王都が兵を集めて後詰(援軍)に来るを待つのじゃ」
「「「…………」」」
カルデンヴァルトの防衛を知り尽くしたクナーセンの発言に、異論は出なかった。続いて議論の対象は、籠城の候補地に移る。これは結論が出ず、クナーセンが各砦の現状を視察して決めることになった。
昼過ぎに戻ったクナーセンは、辺境伯の館から程近い山の峠に築かれているバワーツ砦を勧めた。辺境伯はこの意見に従い、早速、バワーツ砦への兵糧搬入を命じる。
さらに細かい段取りを話し合っていた午後、部屋の窓ガラスを外からコツコツと叩く者があった。見ると一羽のワシである。辺境伯は控えていた兵士に命じた。
「アシマの使いに相違ない。知らせを受け取って参れ」
「ははっ」
やがて兵士は、手紙を持って戻ってくる。それを受け取って読んだ辺境伯は、険しい表情でそれをクナーセン、そして警備隊長のローグ・ガルソンに回した。ローグ・ガルソンは青ざめた顔で、手紙を辺境伯に戻す。
「辺境伯様、これは……」
「ガルソン、テーゼラー卿を呼べ。随行の者共も一緒にだ」
「御意!」
少し経って、リーラニア帝国外務大臣のテーゼラー卿と、その随行員三名が部屋に入ってくる。
「これはこれは辺境伯殿。お招きに預かり光栄ですな」
「御足労いただき痛み入る。良き知らせをお伝えしたいと思いましてな」
「ほう。して、その知らせとは?」
「シャルンガスタ皇女殿下におかれては、無事、国境を通過されたとの由」
「っ……!」




