西部方面軍の追跡失敗
火傷を負って戻ってきたギーブル伯爵の姿を見て、ファルテン子爵は驚愕した。
「司令官閣下! 一体どうなさったのです!?」
「アシマ・ユーベックの奴めに、してやられたわ……姿をくらました上、天幕に火を放つ細工などしおって……」
「だから申しましたのに……誰か、回復術師を!」
早速、西部方面軍の回復術師が呼ばれ、ギーブル伯爵の治療が始まった。そして、伯爵を運んできた竜騎士達を見て、ファルテン子爵がふと尋ねる。
「ボルダヴィクはいずれに? 姿が見えぬようですが……」
「帝都に向かう光が見えた故、今、半数の竜騎士と共に追跡させておる。残りの竜騎士達には、周囲の探索を命じた」
「はっ……流石でございます。それならば、間もなくアシマ・ユーベックとその一味、補足できましょう」
「うむ……」
果たして、程なくして一人の竜騎士が報告に現れた。
「申し上げます! 城の南側にて、移動するランプの光を発見いたしました!」
「よし! 直ちに残った竜騎士隊を攻撃に向かわせよ! 残った半分でも数は向こうと同じ。十分に勝てるぞ!」
城で待機していた竜騎士達は、慌ただしくドラゴンに跨り、今にも空へ飛び立とうとする。だがそのとき、また新たな竜騎士が戻ってきて報告した。
「申し上げます! 城の北側にて、ランプの光が動いております!」
「な、何……?」
さらに続々と報告の竜騎士が現れる。
「申し上げます! 城の西側で怪しい光が……」
「申し上げます! 城の東側にて……」
「ぬうう……一体どれが本物のアシマ・ユーベック一味なのだ?」
「わ、わたくしめに聞かれましても……」
途方に暮れるギーブル伯爵とファルテン子爵。これ以上竜騎士隊を分散させて、全部の光を追わせるわけにも行かなかった。どれか一つの隊が本物を見つけて攻撃したとしても、数が少な過ぎて確実に返り討ちに遭う。
「「「…………」」」
出撃の判断が下せないまま、時間だけが流れていく。そうしているうちに、ボルダヴィクが戻ってきた。
「司令官閣下」
「どうであった、首尾は!?」
跪くボルダヴィクに、ギーブル伯爵が尋ねる。ボルダヴィクは表情に悔しさをにじませながら言った。
「も、申し訳ございませぬ。西部方面軍の管轄地域間際まで例の光を追跡いたしましたが、結局追い付くことができず……さらに、帰路にて数名の竜騎士が何者かに襲われ、墜落いたしました……」
「何という……」
「まさか、そんな……」
ギーブル伯爵とファルテン子爵は、頭を抱えた。




