方面軍司令官、テイマーに付け火される
竜騎士隊は高度を下げつつ、野営地を囲むように展開した。そして各々の騎士は弓を取り出す。ドラゴンに乗った者同士は、剣や槍が届くほど近づくのが難しいので、竜騎士の主な武器は弓矢なのだ。
今にも攻撃が始まろうとしたとき、ギーブル伯爵が口を開いた。
「ボルダヴィク」
「はっ。何か?」
「将校用の天幕には射掛けるな。あそこには皇女がおる。この際、生け捕りにするのも悪くあるまいて」
「首を晒さなくて良いのですか?」
「気が変わった。殺すのはいつでもできる。その前に人質にするも良し、慰み物にするも良しだ。娘の悲惨な末路を聞いた、皇帝の顔を見てみたいものよ……」
「御意。よし、皆、兵卒用の天幕をやれ!」
指示を受け、竜騎士達は一斉に矢を放ち始めた。矢は狙い過たず、次々と天幕に突き刺さっていく。程なくして、中央にある将校用のものを除き、全ての天幕が穴だらけとなった。
「どうやら、全員が眠ったまま絶命したようだな。降ろせ」
「はっ……」
ギーブル伯爵の命で、竜騎士隊は野営地のすぐ外側に着陸した。ドラゴンを降りたギーブル伯爵は、剣を抜いて将校用の天幕に向かっていく。ボルダヴィクが慌てて声をかけた。
「司令官閣下! お一人では危のうございます!」
「皇女の身柄を差し押さえる。付いて参れ!」
「はっ……他の者は、近衛竜騎士共の死体を改めよ!」
「「「御意!」」」
やがて将校用の天幕に辿り着いたギーブル伯爵は、剣を振るって入口の生地を切り裂いた。そして中へ向かって大声を上げる。
「皇女殿下! ギーブルめがお出迎えに参りましたぞ! もはや抵抗は無意味! 大人しく従えば少しの間生かして差し上げても……」
言いながら、ギーブル伯爵は天幕の中へ踏み込む。中には、周囲の様子がほんの少し分かる程度の、微かな灯りがともっていた。
「む?」
そこで彼は異臭に気付く。どうやら油の臭いのようだ。
急に立ち止まれず、ギーブル伯爵はもう一歩、足を前に踏み出した。その足が何かに触れる。同時に灯りが床に落ち、カチャリと音を立てた。
「なっ……」
次の瞬間、床一面に炎が燃え広がった。天幕の中央付近に立っていたギーブル伯爵は、全身を火に炙られる。
「ぎゃあああああ!」
一溜りもなく剣を放り出し、天幕の外へと駆け出すギーブル伯爵。どうにか天幕から脱出できたものの、火は衣服に燃え移っていた。
「あぢっ! あぢあぢあぢ! あぢいいいっ!!」
ギーブル伯爵は地面を転がり、必死に火を消そうと試みる。




