野暮用ができちゃいました
「アシマ殿!」
馬に乗っている騎士が、僕に気付いて叫ぶ。騎士は門の前まで来て馬を下りると、大いに慌てた様子で言った。
「一大事です! クナーセン将軍が謀反の疑いで捕えられ、斬首されることになりました!」
「……はっ?」
一瞬、何を言われているのか理解できず、僕は真顔で聞き返してしまった。この人、僕をからかっているんじゃないだろうか?
「ええと、言っている意味が分からないんだけど……」
「にわかに信じられないのも無理は有りません。しかしこれは誠の話です。将軍が自らの足でヅェールド広場まで歩いて行かれるのを、私も目にしました」
ヅェールド広場は、罪人の処刑に良く使われる場所だ。ということは、まさか本当に将軍は処刑されようとしているのか……
「で、でも……あの忠義に厚い将軍が謀反なんて企むわけが……何かの間違いじゃないの?」
「いかにも。現実に将軍が謀反を企んだなどとは、我々も毛頭信じておりません。しかし摂政殿下が処刑を命じたとあっては、最早どうにもなりませぬ」
「国王陛下は!? 国王陛下は将軍の死刑に賛同されたの!?」
「そ、それは……」
騎士が口ごもる。愚問だった。仮令陛下が死刑に反対されたとしても、表沙汰にはならないだろうし、摂政がその意を汲むとも思えない。
僕は謝った。
「……ごめん」
「……いいえ。刑は、正午に執行されるとのことです。アシマ殿も、なるべく早く王都をお出になった方が良いかと。摂政殿下のお考え次第で、いつ追放刑が斬首に変わるか分かりませぬぞ」
「……分かったよ。知らせてくれてありがとう」
騎士が去り、僕は門から家の庭に戻った。待っていたバルマリクとポルメーに話しかける。
「摂政のおっさんが、クナーセン将軍を斬首刑にするってさ」
「GAAA!」
「PUUU!」
僕の怒りが伝わったのか、二匹とも荒々しい鳴き声を立てた。
『将軍に災いが及ぶやも』と言ったのは確かに僕だが、いきなり死罪を賜るとは、さすがに予想していなかった。しかも、今日のうちに執行である。摂政は将軍に、裁判も受けさせないということだ。
やはり、僕の追放取り消しを働きかけたせいで、摂政の怒りを買ってしまったのだろうか。
それとも、僕の追放とは関係が無く、将軍を殺したいという摂政の思惑があったのだろうか。
「…………」
うーん。まあいいや、別にどっちでも。僕は考えるのを止めた。
どっちにしたって、僕が何とかしなくちゃいけないことに変わりはないのだから。




