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勅使の志願者

「将軍……」


僕はゾンドルム将軍に視線を向け、声をかけた。


クナーセン将軍の下にいたので、リーラニア帝国の軍事事情は多少僕も知っている。長年マリーセン王国と戦ってきた西部方面軍は、リーラニア帝国軍の中でも精鋭だ。仮に戦うとなった場合、帝都近辺で集まった軍勢が勝つのは簡単ではない。


行くしか選択肢のない僕と違い、この状況で自ら名乗り出るのは半端な決意ではないのだろう。剛毅なことだ。


「ユーベック殿!」


ゾンドルム将軍は僕の方を向き、破顔一笑して言った。


「昨日は手柄を独り占めされたが、此度は我等にも良い格好をさせていただきたい! 共に皇帝陛下に忠義を尽くし、国を安んじようぞ!」

「御意……」


僕が深く頷くと、皇帝陛下が口を開いた。


「良かろう。地上部隊の指揮はゾンドルム将軍に任せる。直ちに兵を集めて西部国境に向かい、西部方面軍が説得に応じぬ場合に備えるのだ」

「ははーっ。かしこまりました!」


平伏するゾンドルム将軍。これを見て、さらに何人かの将軍や武官が従軍を願い出る。


これで、リーラニア中央政府の対応は決まった。ぐずぐずしている猶予はない。僕は立ち上がると、後ろのマルグレーチェを振り返って言った。


「じゃあ、行ってくるよ」

「はあ?」


マルグレーチェは、露骨に不審そうな顔をする。何かいけなかっただろうか。


「ど、どうしたの……?」

「どうしたの、じゃないわよ! 私を置いていく気!? 回復術師なしで戦場に行く将軍がどこにいるのよ!?」

「えっ? でも今度こそ危ないし……」

「危ないから回復術師が必要なんじゃない! 部下が怪我したらどうするの!? 危ないから回復術師は置いてきましたとか言うわけ!?」

「そ、それは……」

「私も付いていくわよ。いいわね?」

「ううう……はい」


マルグレーチェにやり込められ、僕は渋々頷いた。できれば安全な帝都で待っていてほしかったのだが、とても聞き入れてもらえる気がしない。


その様子を見ていた廷臣の一人が、軽口を叩いた。


「ハッハッハ……最強の魔道士を倒した竜騎将軍殿も、奥方様には頭が上がらぬようで」


謁見の間がしばし、笑い声に包まれる。一人だけ笑わなかったシャルンガスタ皇女殿下は、(くだん)の廷臣に近寄ると勢いよく足の甲を踏み付けた。


「ぎゃああ!!」


その場に倒れ、痛みにのたうち回る廷臣を尻目に、皇女殿下は皇帝陛下の前に跪き、言った。


「父上。西部方面軍に派遣する勅使のお役目、どうかこのわたくしにお命じください」

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