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皇帝への願い

報告に来た兵士の答えに、皇帝陛下は重ねて問うた。


「ならば何故(なにゆえ)、西部方面軍は侵攻を中止しておらぬ!? 方面軍司令官は何と申したのだ!?」

「お、恐れながら、命の行き違いとはいえ一度(ひとたび)侵攻を始めた以上、安易に撤兵はできぬと……皇帝陛下の御命令は現地の状況を踏まえずに出されたものなれば、現状を御認識の上、再度の御判断をと申しておりました……さらに、直ちに増援をお送りいただければ、カルデンヴァルトの併合は確実とも……」

「余の許しなく勝手に戦端を開きながら、何が現地の状況か!」


皇帝陛下の怒号が謁見の間に響き、兵士は恐縮したようにひれ伏した。それを見て、財務大臣が陛下に声をかける。


「へ、陛下……」

「うむ……」


落ち着きを取り戻したのか、皇帝陛下は玉座に腰を下ろして兵士を(ねぎら)った。


「大儀であった。下がって休むが良い」

「ははーっ!」


兵士は立ち上がり、謁見の間を後にする。皇帝陛下は廷臣達を見回して尋ねた。


「皆、聞いての通りである。いかにすれば良いと思うか?」

「思いますに……」


財務大臣が進み出て意見を述べる。


「他国と戦を始め、和議を結ぶは皇帝陛下の大権にございます。此度(こたび)の西部方面軍の振る舞いは、この大権を犯すものに他なりませぬ。お認めになってはなりません!」

「うむ……」


頷く皇帝陛下。宰相を始めとする主戦派がいなくなっているせいか、反対意見は出なかった。


やがて、皇帝陛下が再度口を開く。


「西部方面軍は、余の許しなく、また先方の挑発もない状況でマリーセン王国との休戦を破り、兵を進めた。これを認めれば、今後兵権を持つ者が、我も我もと勝手に隣国との戦を始めるに相違ない。そうなれば帝国の秩序は失われ、国の危機と相成ろう……」

「「「…………」」」


僕達が黙って耳を傾けていると、皇帝陛下はさらに続けた。


「西部方面軍に勅使を送り、即時の撤兵を再度厳命いたす。聞き入れぬ場合は反乱軍とみなし、武力討伐も()むを得ぬ!」

「「「ははーっ!」」」


僕達は深々と頭を下げた。


西部方面軍がカルデンヴァルトへ侵攻すること自体は防げなかったが、リーラニア帝国の中枢がそれに加担しないのは大きい。場合によっては、帝都から派遣されるであろう反乱討伐軍と共同して事に当たれるかも知れない。


早くこのことをクナーセン将軍達に伝えよう。僕は改めて皇帝陛下の前に(ひざまず)き、言った。


「陛下にお願い申し上げます! どうかわたくしをカルデンヴァルトに行かせてください!」

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