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兵士の報告

「「「?」」」


僕達が入口の方を振り向くと、一人の兵士が入ってくるところだった。よほど急いでやってきたのだろう。その足取りはふらふらで、明らかに疲れ切っている。兵士は玉座の近くまで歩いてくると、その場に崩れ落ちるように跪いた。


「あっ」


近くにいた僕とマルグレーチェが、兵士を両脇から支えた。その兵士に、玉座の皇帝陛下が問いかける。


「何事だ?」

「…………」


兵士は二、三回荒い呼吸を繰り返してから、話し始めた。


「せ、西部方面軍は、既にカルデンヴァルトへの侵攻を開始しておりました!」

「「「!?」」」


瞬く間に、謁見の間は騒然となった。もちろん僕も驚く。皇帝陛下は立ち上がって兵士に尋ねた。


「何と! もう進軍していたと申すか!?」

「は、はい……皇帝陛下から侵攻のお許しが出るのは確実と、宰相閣下が方面軍司令官に話したとのことで、戦機を逃さぬため陛下の御裁可前に進軍を開始したと……」

「ぬうう……」


苦り切る皇帝陛下。そこへ財務大臣セルウィッツ卿が進み出た。


「お、お待ちくださいませ!」

「いかがした?」

「兵士の一人といえども、動かすには国の予算が必要でございます。予算なくしては武器・兵糧の準備もできませぬ。このわたくしめがカルデンヴァルト侵攻の予算を承認しておらぬ以上、少数の兵士ならいざ知らず、大軍が動けるはずは……」

「ううむ……」


皇帝陛下が唸る。もしかすると、侵攻を開始したというのは方面軍司令官のハッタリなのだろうか。


だが、報告に来た兵士は言った。


「そ、それが……一月分以上の武器、兵糧があるとのことでございました。いかにしてかは分かりませぬが、宰相閣下が事前に手を回して準備したと……」

「ガルハミラめ! (むくろ)になってからも余を悩ませるとは!」


皇帝陛下は床を踏み鳴らして怒りを露わにした。宰相は帝国の予算を横領したのか、それとも私財を傾けたのか。今後調べればはっきりするだろう。


いや、そのことは今、どうでもいい。


僕は結局、西部方面軍がカルデンヴァルトに侵攻するのを止められなかった。こうなったら一刻も早くカルデンヴァルトに戻り、クナーセン将軍に合流して戦わなくては。


でも、その前に……僕はちらりと皇帝陛下を窺った。陛下がこの事態にどう対応するか、そこだけは見届けていこう。


皇帝陛下は、さらに質問を発する。


「して、司令官に余の命は伝えたのか!? カルデンヴァルトへの侵攻は中止と申したはず!」

「む、無論でございます!」

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