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転ばぬ先の……

「…………」


皇帝陛下は、しばらくの間難しい顔をして黙っていたが、やがて口を開いた。


「時節が訪れれば、マリーセン王国に帰りたいと申すのだな……リーラニア帝国に仕えるは、好まぬか?」

「とんでもございません」


僕は首を横に振った。


「ただ……マリーセン王国に、少々気掛かりを残してございます」

「その気掛かりとは?」

「マリーセン王宮の獣舎には、わたくしがテイムしておりました魔獣達がおります。王都を追放となったとき、後任のテイマーにその魔獣達のテイムを引き継ぐことが許されませんでした。それゆえ、テイムする者のいなくなった魔獣達が今に暴れ出すのではないかと、恐れているのでございます」

「ふむ……」

「仮にそのような事態になれば……王国は事態を収拾せんと、わたくしを呼び戻そうとするやも知れません。そのときにわたくしが戻らねば、誰も御すことのできない魔獣達を、王国は殺処分することでしょう。それではあまりに、魔獣達が不憫というもの……何卒戻ることをお許しくださいますよう」


言い終えて、僕は平伏する。昨日考えておいた、公の場で波風を立てないようにする言い訳だった。皇帝陛下や廷臣達と同様、僕もここでは、本当のことは言わない。


「……マリーセン王国とて、愚かではあるまい。そなたには及ばぬまでも、別のテイマーを招いて、獣達が暴れぬようにするのではないか?」

「おそらくは、陛下の仰せの通りになると存じます。戻りたいというのは、先に申しました通り、あくまでも万が一のときの話にございます」

「さようか……ずいぶんと心配性であるな」

「恐れながら、昨日はその心配性ゆえに、陛下のお役に立てました」

「ううむ……」


考え込む皇帝陛下。そのとき、シャルンガスタ皇女殿下が「父上……」と皇帝陛下に近づき、何かを耳打ちした。


「ふむ。なるほど……」


何を聞かされたのか分からないが、皇帝陛下は微笑を浮かべて頷いた。そして僕に向かって言う。


「良かろう。そなたの思う通りにするが良い。無論、余としては、そなたが去るような事態にならぬことを望むがな」

「感謝いたします!」


ありがたいことに、申し出は受理された。僕はもう一度、深々と平伏する。


これで、僕達の処遇のことは片付いた。後はクナーセン将軍や、将軍の一族郎党の人達を呼ぶだけだ。外務大臣のことは、皇帝陛下に任せよう。


そう思ったとき、不意に誰かが謁見の間に慌ただしく駆け込んできた。


「も、申し上げます!」

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