恩賞を巡って
翌朝、新しい礼服を与えられた僕は、それに着替えて、マルグレーチェと共に謁見の間に向かった。
謁見の間に入ってみると、心なしか、昨日より廷臣の数が減っているように思えた。もしかしたら、宰相派と目された人達が拘束されたのかも知れない。
僕達は隅っこの方に立った。やがて朝議が始まると、玉座の皇帝陛下が僕を呼ぶ。
「アシマ・ユーベック。前に進み出よ」
「ははっ……」
進み出て、皇帝陛下の前に跪く。顔を伏せていると、「面を上げよ」と言われたので、僕は顔を上げて皇帝陛下を見た。
「アシマよ。昨日の働き、誠に大儀であった」
「恐れ入ります……」
「そなたはシャルンガスタを救い、余を救い、リーラニア帝国を救った。実に、空前絶後の大功と言わねばならぬ。それに対し、余はリーラニア皇帝として恩賞を授けようと思う。何か、望みがあれば申すが良い」
皇帝陛下に尋ねられ、僕は答えた。
「もったいないお言葉を賜り、恐悦至極に存じます。およそ、望みと申すほどのものはございません。強いて申し上げますならば、昨日お聞き及びの通り、リーラニア帝国へは亡命のために参りました。クナーセン将軍、マルグレーチェ、並びにクナーセン将軍の一族郎党共々、この帝国の片隅にでも住まうことをお許しいただけたならば、十分にございます」
「おおお……」
「な、何と……」
僕の言葉に、廷臣達がざわめく。ほとんど何も要求しないに等しい回答が、意外だったようだ。
「ううむ……」
皇帝陛下は、少し唸ってから言った。
「その儀は、喜んで許そう。この帝都に屋敷を用意させるゆえ、住まうが良い。されど、それのみではそなたが立てた功績に比べ、余りにも過少と申すもの……時にアシマよ。その方、マリーセン王国においては、いかなる地位にあったか?」
「准男爵、二級魔道士でございました」
「よろしい。ならばまず爵位は、二つ上の子爵位を授けよう」
来たか……
昨日、シャルンガスタ皇女殿下が言っていた通り、皇帝陛下は僕に爵位を与えにきた。返事をしようと、僕は口を開きかける。
「っ……」
「それに加えて……」
だが、皇帝陛下の言葉はまだ続いていた。僕は口を閉じ、最後まで聞くことにする。
「魔道大臣はおるか?」
「はっ、ここに」
白髪頭にローブを着た、年配の男性が前に進み出る。皇帝陛下はその魔道大臣に命令を下した。
「余は、アシマ・ユーベックを皇室魔道士に列したいと思う。その方より、帝国魔道評議会に推挙いたすように」




